ブラジルを席巻したオランダ代表チーム、における工夫。

まずは、ブラジルW杯でのオランダ代表のことを考えてみよう。

スペインを葬り去った試合が最も印象深いオランダは、ブラジルの地で新鮮な驚きを提供したチームの1つとなった。この大会、最もオランダで印象的だった選手は恐らくディルク・カイトなのではないだろうか。コンバートを繰り返されながら、ウイングバックとして走り回る彼の極めて優れた戦術理解度は、オランダ代表を上位に導いた1つの要因だろう。

また、ファン・ハールがマンチェスター・ユナイテッドへと呼び寄せた秘蔵っ子、ダレイ・ブリント。彼もまた、様々なポジションを高レベルでこなす柔軟なプレーでチームを支えた。

ダレイ・ブリントとカイト。この図のように、アルゼンチン戦では彼らが両ワイドとしてチームを支えた。また、センターラインにおけるロン・フラールやナイジェル・デ・ヨングの働きも見事で、チームの背骨となる中央部を支えた。

では、ここでチームの年齢分布について考えてみよう。アルゼンチン戦でのスタメンでの年齢分布は、下図のようになっていた。

3CBの両脇に比較的若い選手を配置するというのは、ある意味で斬新な発想だった。しかし、このフォーメーションにおいて、守備時は5バックとなる中央はある程度の人数をかけることが出来る。

むしろ複雑な動きが要求されるワイドに34歳のカイト、戦術理解度の高いブリントを配置。それによって、2人の若いCBの負担を減らそうと考えたのである。守備時は、ほぼ5バックの位置にまでウイングバックが下がって、フラールと共に若手CBをキッチリと挟み込んでカバーする。更に、中盤にはデ・ヨングという経験豊富なベテランが配置されており、彼ら若手の負担は更に減る。

また、こう見ると解りやすいが、中盤から前には経験豊富な選手を置いている。比較的自由に動き、余り戦術理解度が高くないスナイデルを除いて考えても、ファン・ペルシーとロッベンという組み合わせは、経験面でも戦術理解面でも優れた選手たちだ。ハインケス、グアルディオラの指導によってポジショニング面で大きく成長したアリエン・ロッベンは、オランダの戦術の鍵になった。

このようなメンバー構成を見てみると、オランダ代表でファン・ハールは、3バックの両脇のCB、ボランチ1枚(オランダ代表ではワイナルダムがこなしたポジション)、トップ下、というポジションに、比較的若い、もしくは戦術理解度に難がある選手を置いた。この4枚のポジションの自由度を高め、負荷を減らし、それ以外の選手で補う、というのがW杯におけるファン・ハールのチーム・マネジメント術だった。掌握したベテランに難しい仕事を託し、若手の負荷を減らす。それによって、若手選手達は、W杯という大舞台にも関わらず、ブラジルの空へと羽ばたいていった。

スーパーサブとして、3トップ採用時に起用した若きデパイも印象的な活躍を見せたことも述べておく必要があるだろう。試合を経ることに自信を付け、堂々とプレーしていた若き才能達は数年後、ファン・ハールとの再会を果たすことになるかもしれない。

【次ページ】マンチェスター・ユナイテッドにおける応用。