とうとうこの時がやってきてしまった。

6月29日、チェルシーGKペトル・チェフ(33)のアーセナル移籍が正式に決まった。

名門ガナーズとの契約とは言え、嬉しさより寂しさが勝る発表ではないだろうか。引退までキャリアを捧げるつもりでいたチームを離れる決断は、大変辛いものだったに違いない。

サポーター達も、クラブ史に残るレジェンドとこんな形で別れることに無念の思いで、今はただ感謝と哀愁が入り混じる複雑な気持ちを浮かべている。そしてこの退団の経緯は、ある男の例と重なる。

2004年の入団から10年間、栄光の日々を過ごした。チェルシーほどのビッグクラブに在籍しながら、一度もレギュラーの座を譲ることなくゴールマウスに君臨。途中、頭蓋骨陥没骨折という命に関わる重傷を負うも、ヘッドギアを着けて立ち上がりさらなる偉大な選手へとステップアップした。

この間に獲得したトロフィーは数知れない。プレミアリーグ3回、リーグカップ2回(ともに後述の11年目に1回ずつプラス)、FAカップ4回、コミュニティシールド2回、ヨーロッパリーグ1回、そしてチャンピオンズリーグ1回と、獲れるものは全て手にした。

とりわけ、モスクワの惨劇を経て悲願の目標となっていたチャンピオンズリーグは、バイエルンとの決勝戦で計3本のPKを止めたチェフの活躍がなければ手の届かないタイトルだった。

人気、実績、信頼の全てを勝ち取り、本人もキャリアの絶頂を送っていると感じていたことだろう。

しかし加入11年目の2014-15シーズン、事態が急変。あれだけ絶対的存在だったはずが、突如として二番手への降格を告げられた。自身のパフォーマンスが低下したわけではない。コーチ陣と揉め事を起こしたわけでもない。

クラブによる若返りの方針ーー。

世界を代表する超一流選手も、組織の方策には抗えなかった。

【次ページ】状況を変えたクルトワの加入。しかし・・・