「5レーン」が生む、危うさと楽しさ…最先端のサッカーを見よ!

千葉園子のポジションが「トップ下兼ボランチ」となったように、ASハリマ・アルビオンも攻撃時と守備時で変化する可変型システムを採用し始めた。

イタリアでは「システムとは、自分が率いることになったチームに着せる洋服」と表現されている。今年のアルビオンは“普段着”と“外出用のオシャレ着”を着こなすようだ。

そして非公開で行われたこの日の練習試合、ある言葉が筆者の耳に残った。「レーンを変えないと!」「レーンを意識して」などなど。特に控え組が中心となった3本目のゲームでは、田渕監督がゴール裏まで移動して「レーン指導」の指示を出していた。

「レーン」とは、最近になって男子の欧州サッカー最先端の現場で用いられるようになった言葉だ。ピッチを縦に5分割し、それぞれ、【中央】【左右アウトサイド】【左右インサイド】と表現される。また、【インサイド】は、【ハーフスペース】とも形容される。

チームによって約束事は異なるが、一般的にポゼッションを高めようとする場合は次の3つの条件が定番化されている。

1 :「1列前の選手が同じレーンに並ぶのは禁止」

2 :「2列前の選手は同じレーンでなくてはならない」

3 :「1列前の選手は適切な距離感を保つために隣のレーンに位置することが望ましい」

上記した3つの条件は、主にサイドバック・ウイング(サイドMF)・インサイドMF・守備的MFに大部分が集中する約束事である。

バニーズ京都の千本哲也監督は「ボランチとサイドバックは一緒」、岡山湯郷Belleの亘崇詞監督は「サイドバックとボランチ、サイドMFがポジションをローテーションしながら入れ替われるのが理想」と言う。筆者が取材を通して聞いた彼らの表現も、この3条件に当てはまるモノである。

田渕監督によると「“レーン”という言葉を使ったのは今年からで、頭に入って来るのに良い言葉だと感じたので使っています。今は情報化社会ですから、選手達も世界各国の色んな最先端の言葉を知っています。この言葉を共通認識として使うようになって、ポゼッション部分の改善に成果が出ています。また、そういうタイプの選手を集めたチーム編成にもしています。課題はありますが、是非楽しみにしていてください」とのこと。

引退した藤本&西山は、男子日本代表に置き換えると「田中マルクス闘莉王と中澤佑二」のような存在だった。その屈強なCBコンビを活かすのは当然だ。男子の日本代表も2010年の南アフリカW杯で守備重視の戦略を採ってベスト16進出を成し遂げた。

彼女らが抜けた今年、千葉(6月に25歳になる)と同世代の選手が一気に増加した。サッカー観が似ている選手が増えたのか、チームの雰囲気はかなり良い。

千葉も口にしたように「ハマった時には楽しいサッカーができる」のとは裏腹に、ハマらなければ危険なボールロストも多い。守備的なチームが攻撃型へ転換するのは難しい。それがサッカー界の常識の1つだ。

ただ、ASハリマ・アルビオンには、もともと千葉や葛馬、内田といった個人で打開できる選手は揃っている。そして、この日の控え組が見せていた丁寧な組織プレーでの崩しが混ぜ合わされば、どんなに楽しいサッカーになるだろうか?

「ここ数年より楽しい」と千葉が言う“新たなアルビオンのサッカー”は大きなリスクを伴う。それでも生まれ変わろうとする彼女らのプレーを、是非とも現地で見て欲しい!