“新たな左サイドバック”作間が生み出す「遠回り」

1対1で折り返した後半、大嶽監督は55分という早い時間帯に2枚の選手交代のカードを切る。

アンカーには技巧派のMF澤田に替わり、リーグ戦全試合フル出場しているMF乃一綾。また、右ウイングをベテランのMF下條彩から、2年目のMF山嵜菜央にスイッチした。

DFもこなす乃一は澤田のような繊細さはないが、レンジの長いパスでの展開力やプレー強度の高さでボールを奪い切れるのが魅力。また、山嵜は得点に直結するオフ・ザ・ボールの動きに優れる下條と違い、よりサイドから鋭いキレのあるドリブルで仕掛けられる。

つまり、伊賀は選手交代を機に攻撃に幅をもたらすサイド攻撃に力を注いできたのだ。

その効果は即座に表れた。

59分、中央の杉田から右サイドへ展開。右SB松久保明梨からのパスを受けた右ウイングの山嵜は、ゴールライン際から鋭く速いグラウンダーのクロスを折り返す。中央へ入って来た杉田が倒れ込みながらも右足でゴールに蹴り込み、スコアは2-1となった。

ゴールへの“最短距離”を走るのがファストブレイクであるならば、“遠回り”と表現できるのが、サイド攻撃だ。

ただ、シンプルなサイドからのクロスだけでは得点はあまり期待できない。その点、今季の伊賀では左SBとしてプレーしているMF作間(下記写真)に注目だ。

作間は時にはセットプレーのキッカーも担当する精度の高い左足のキックを持つ。当然ながらシンプルなクロスも十二分に蹴れる選手だが、彼女の存在がサイド攻撃に深みを加えている。

作間が左ワイドでボールを持った時、近い側のペナルティエリアぎりぎりにシャドーの杉田や森が走り込んでくる。その動きに合わせて作間は、短くも正確で鋭いスルーパスを供給するか、ワンツーを駆使して自らがより深い位置へ入り込み、リターンパスを受けて突破する。

どちらの場合もぺナルティエリア内のゴールライン際まで突破しての折り返しになるため、相手守備陣は自陣ゴールに戻りながらの対応となる。

人とスペースのケアが難しくなるため、サイド攻撃から決定機が生まれるのだ。それが「“ニアゾーン”の攻略」である。

試合はこのあと、セットプレーでのゴール前の攻防から、森のヘッドが決まって3-1。ホームの伊賀が突き放して勝利をもぎ取った。