愛息が感じ取っている引退の兆候

家族とともに移り住んだ松本では、雄大な自然に囲まれながら新しい挑戦を始めている。

「松本はすごく住みやすい。地域全体が子どもに対して優しいですし、社会保障やいろいろな制度も充実している。子どもたちも楽しく学校生活を送っています。

サポーターの方も熱いですし、最初の新体制発表のときから、ものすごい熱気に包まれた。僕は2クラブしか経験したことがないですが、熱量が素晴らしいクラブだと思いました」

新たな背番号24を背負う松本では、ここまでリーグ戦30試合に出場。これまでの経験をチームに還元している一方で、自身のプレーには満足していない。

「安定したパフォーマンスを出し続けることが自分の良さだと思っていますが、年齢を重ねていく中で今年はそれができにくくなっているというのが正直なところ。

疲労感や次の試合でフレッシュな状態に持っていくことも難しくなっている。そこからの判断ミスも増えていて、『自分らしくない…』と思うことが以前より増えましたね」

画像4: (写真 松本山雅FC)

(写真 松本山雅FC)

昨季の松本はJ2昇格プレーオフ(PO)決勝で当時J3カターレ富山に2-2で引き分け、年間順位の差でJ2復帰を逃した。今季はその雪辱を果たしたかったが、クラブはここまでJ3第37節を終えた時点で15位(全20チーム)。J3残留は達成したが、J2復帰の可能性は消滅した。

「まだまだ『自分には…』と思っている選手もいるのかなとは思う。一人、一人がこれまでの成功体験や技術を自信に結び付けて、もっと堂々とプレーできるようになるべきだと思います。いいものは持っているんだから」と、ベテランはJ3最終盤を戦っている。

新天地で奮闘する小川をサポートしようと、家族はホームでの試合に駆けつける。サッカー選手を目指しているという小学4年の長男は、冷静な着眼点でパパのアドバイザーにもなっている。

「長男は評価もしてくれます。『きょうはパッとしなかったね。らしくないパスミスも多いし、バックパスも多い。でも、あそこのファーストタッチは良かったね』みたいな(笑)。よく観ているなと思います。僕はチャンスネメイクというよりは、一個前の打開するパスとかが得意なので、渋いところを突いてくる」

画像3: (C)Getty Images

(C)Getty Images

まさに総力戦。緑のユニフォームに身を包んだ小川は、熱く応援し続けるファン・サポーターや、愛する家族の声をエネルギーにして闘っている。

松本でサッカーへの情熱が再燃中だ。34歳はさらなる上達や活躍を渇望している。

一方で、的確なアドバイスをしてくれる長男は、子どもながらにパパがスパイクを脱ぐ瞬間をイメージしているようだ。

「最近、一緒に銭湯へ行ったんですけど、『ママに内緒でアイスを買ってやる』とか言いながら話していたんです。そしたら長男が『サッカーを辞めたらパパは何をするの?』と聞いてきました。

僕はそんなに引退を意識しているわけではないし、まだムチを打ってでもやりたいと思っていましたが、『辞めても、ちゃんと稼いでね』と引退する文脈でした。息子は、僕のパフォーマンスや日ごろの疲労度とかを感じ取っていて、もうそろそろだと思っているんでしょうね」

画像5: (写真 松本山雅FC)

(写真 松本山雅FC)

ピッチ内外にわたり34歳の挑戦は続いている。

小川は2022年に山田さんとともに、困窮家庭の子どもたちに様々な支援を届けるため一般社団法人ReFrameを設立。その後2024年に活動を本格的に拡大させていくために、NPO法人ReFrameを設立した。

現在は法人で物件を購入し、常設かつ多機能型子ども食堂の設立や、浜松を中心とした子どもを取り巻く課題解決に取り組む団体を後方支援するための”浜松こども基金”の設立を行っている。

小川にいまの目標を尋ねると、「松本山雅をいるべき場所に戻すこと。山雅への入団が決まり、まずは昨年悔しい想いをしたこのクラブをJ2という舞台に戻さなければいけないと強く思いました。アウェイでもホームのような空気を作り出してくれるサポーターは他にはいません。そのサポーターの期待に応えるために戦うのみです」と力強い言葉が返ってきた。

磐田を去り、新天地に身を置いた小川には新たな夢もできた。

「ジュビロを離れるときに、『自分の次の夢って何だろう?』と考えたときに、やっぱりまたヤマハスタジアムに戻ってくることだと思いました。その夢をかなえることができたらいいなと思いながらプレーしています。いままでどんなときも力強く僕の背中を押し続けてくれた声援を、敵チームとして正面から受け止めてみたいですね」

たとえ離れ離れになったとしても、愛する気持ちは変わらない。

「モチベーションがある限り、いまみたいにボールを追いかけ続けたい」と、小川は再びサイドを駆け上がる。

This article is a sponsored article by
''.