チャンピオンズリーグの決勝―ヨーロッパの頂点に立つチームを決める闘いがマドリード・ダービーとなったことは、今季のスペインリーグ全体の競争力を示すと共に、運命的なものを感じさせた。片や、選手の気持ちを理解して檄を飛ばし続ける若きアルゼンチン人指揮官ディエゴ・シメオネが今季スペインリーグを制すまでに研ぎ上げた鋭く輝く日本刀、アトレティコ・マドリード。片や、経験豊かなイタリア人指揮官カルロ・アンチェロッティによって率いられ、世界一とも言える競争の中から生き残った傭兵集団、レアル・マドリード。前回のコラム( 「引くことだけが守ることではない」。2トップに仕込まれたアンチェロッティの毒。)でも述べたように、カルロ・アンチェロッティは柔らかく温和な雰囲気でありながら様々な毒を仕込む、勝負への冷酷さを持つイタリア人らしい指揮官だ。

本コラムでは、前半にアンチェロッティの仕掛けた毒とシメオネのチームが見せた素晴らしい献身、組織力について説明しつつ、終盤の奇跡を生み出すに至ったアンチェロッティの仕掛けを中心に解釈を目指したい。これは、目前に迫るW杯でも状況によって応用することが出来そうなテーマでもある。

アンチェロッティが仕込んだ毒、ケディラの使い方。

3センターの中央として本調子でないケディラを使ったことに驚く声も多かったが、これはアンチェロッティがアトレティコを知り尽くしているからこその手だった。

堅牢な4-4ゾーンで守るアトレティコの最大の強みは、何より2トップを2CBに当てておけることだ。大抵のチームが1トップで中盤の守りを強化してくる中、シメオネが仕込んだ中盤は4枚での獣のようなボール狩りで簡単に相手のパス回しを封じ込める。リーグ戦では、あのバルセロナですら、まるで酸欠になってしまった魚のように苦しそうにボールを失っていった姿が印象的だった。ドルトムントのレヴァンドフスキ、アーセナルのジルーといった「長身ストライカーを使ってボランチのエリアに浮き球を送り、そこでの高さのギャップを使ってボールを落とし、アタッカー陣が前を向いた状態でのショートカウンターを仕掛ける」、というのは昨今様々なクラブに使われているやり方ではあるが、アトレティコの場合FWが1枚下りてきた際でも1枚はDFラインと駆け引きしているという点で厄介さが倍増している。落ちていくFWをマークしているCBが、残ったFWの裏へのボールを意識しなければならないことで、思い切ってアタックに行くことが制限されるからである。

1トップであればボランチのエリアまでCBが出ていって競り合うことでラインを上げながら高さのギャップを埋めるといった手段も可能だが、2トップとなっていることからCBはなかなか出ていけない。そこで中盤に競り勝ち、かつ図のように中盤のセカンドボール奪取能力を生かして速攻に繋げる。決勝戦でも恐ろしい勢いでのボールへのプレスを見せたが、勢いに乗って押し寄せる波のような前からのプレスを仕掛けるドルトムントとはまた違う。アトレティコの選手達は、セカンドボールを的確に予測し、ロングボールが宙に浮いている間に一度止まる。的確なポジションと距離感を取り、猟犬の群れのように一気にセカンドボールに襲い掛かるのだ。

アンチェロッティは自分たちの強みを生かすこと以上に、このアトレティコが得意としている攻撃を封じることに重きを置いた。だからこそ、シャビ・アロンソが使えない状況で189cmの長身を誇るケディラを起用したのだ。前半を見れば、ゴールキックなどで蹴られた中途半端なボールに対しては必ずケディラが競りに行っていることが解る。Squawkaのヒートマップを見てもケディラが一定のエリアでの空中戦を任されていたことは明白だ。怪我からの復帰で本調子ではなかったことから攻撃では存在感を示せなかったものの、アンチェロッティによって送り込まれた毒はアトレティコの勢いを削ぐ上で大きな仕事をこなした。

攻撃でも徹底的にボール狩りからのカウンターを避けるようにサイドを中心にボールを回すなど、レアル・マドリードは慎重に慎重にヨーロッパでの経験の少ないアトレティコの焦りや疲労を誘おうとしていた。それでも、先制弾はアトレティコ・マドリードだったのだから、シメオネが完成させたチームがどこまで優れているか解るだろう。世界一の傭兵集団に対策を練られながらも、相手のミスを逃がさずにセットプレーから得点。先制弾の瞬間は、まるでディエゴ・シメオネが、ポルト時代のジョゼ・モウリーニョのようにフットボールの神様に愛された「時代を変える男」のようにも見えた。カシージャスのミスがあったとはいえ、このセットプレーでも、アトレティコの選手達が持つ圧倒的なこぼれ球の予測能力が生きている。中途半端なクリアの間にポジションを整え、味方からのボールを全員が最適なポジションで待つ姿は、練習の成果なのだろう。

【次項】奇跡を呼び込む「最後の一押し」