ザッケローニを苦しめた3つの問題点

この戦術における1つ目の問題点は、長谷部と山口がヤヤ・トゥーレに引っ張られ過ぎたことである。彼が引いた時に中途半端に空いたDFラインと中盤の間に生まれるスペースにジェルヴィーニョ、カルーといった「内側でのプレーを好むウイング」が入り込み、何度となく無防備なDFライン相手にドリブル突破を仕掛けた。本来は中盤の底としてのプレーというより、人を見るプレーを得意とする長谷部は縦関係となった山口とのコミュニケーションに苦しみ、上手く選手を受け渡すことが出来なかった。

慣れない中盤の底というポジションで、それもヤヤ・トゥーレだけでなく様々な世界レベルの俊足で強靭なアタッカーが飛び込んでくる状況。明らかに長谷部は手一杯になってしまっていた。実際後半開始早々から、長谷部のポジションが明らかにズレ始める。52分には何故か中央ではなく岡崎のマークの方向へ流れていく瞬間もあり、この時にはもう縦関係というより山口と共に高めの位置を取ることも多くなってしまっている。4-4-2のようになったり、4-3-1-2のようになったり、日本代表から狙いがあって動かすのではなく、相手の勢いに耐えかねて守備が狂っていったのだ。それも低い位置での4-4ブロックであればいいのかもしれないが、中盤が高い位置を取ったことからDFラインが戸惑うようにラインを上げていくような場面も見られた。

そこで遠藤を入れたのは、恐らく守備の修正のためだろう。実際彼が入ってからは4-3-1-2に近い形に一瞬は戻っている。しかし、この4-3-1-2が良い手だった訳でもない。フォーメーションを変更しても、何度となくヤヤを中心とした選手達のパワフルな突破によって中央から危険な場面を作られていくことになるからだ。そうなると当然なのだが、なんとかして中央を埋めようと岡崎、香川の意識がより内側に向いていく。これが更なる問題を生むことになる。

2つ目の問題点は、コートジボワールがディエをDFラインの中央に入れた形で組み立てをしてきたことだ。こうなると本田と大迫の2人ではプレスを満足にかける事が出来ず余裕を持ってパスを回されてしまうことになってしまう。プレスの指揮官となる選手の不在から、山口や大迫といった若い選手は明らかにどのタイミングで行くべきなのかに迷っているようにも見えた。更に、中盤を細かいパスで経由するよりも、シンプルに長谷部の左右に生まれたスペースにウイングを入り込ませて縦パスを送り込むような攻撃や、シンプルなロングボールをDFラインから狙うような攻撃をコートジボワールが選んだことから、中盤からの守備で仕掛けていく形に上手く持ち込む場面を見失ってしまった。

そして最後の問題点が最も致命的なものであり、面白いことにこれは一つ前のイングランド対イタリアでも見られたものだった。イングランド対イタリアの試合では、ピルロ、デ・ロッシ、ヴェッラーティに加えて内側にマルキージオが入ってくることによって、2センターでは明らかに対処が不可能になってしまった。4対2という致命的に数的不利を解消しようと、自らの判断でサイドを担当する4ウェルベックが内側のサポートに向かってしまう。結果それによって、対面するサイドバックがフリーに。イタリアのダルミアンは常にフリーでボールが持てる状況になった。

今回の問題も根本的にはそれに近い。長谷部のポジションが狂う前からその傾向はあったものの、後半中央を何度となく脅かされたことで、香川の意識が内側へ。1失点目のシーンでは、山口も低い位置に吸い込まれているのだが、自分が奪われた後もサイドバックの位置へプレッシャーをかけるのではなく、一番危険なイメージが強い中央で守備に参加してしまった。2失点目は更に中途半端で、中に戻っただけで満足してしまって足を止めてしまったところをサイドに展開され、そこからセンタリングを上げられてしまっている。結局のところ、山口と長谷部を縦関係にしたことが全ての原因であったように思える。

面白いことに、前半2分58秒で既に、意識的に中央に寄った香川の外からカルーにセンタリングを許し、岡崎がなんとかクリアする場面がある。もともと守備が得意でない香川に、3センター的な位置での中央のヘルプとサイドバックのマークをこなしつつ、攻撃でも働けというのは明らかに無理があったのだ。

【次項】ザッケローニの迷いを生んだもの、そしてギリシャ戦へ