果たしてクロース放出は正しかったのか?

前日彼は美しき白いユニフォームを身にまとい躍動した。クリスティアーノ・ロナウドやベイルがいくらか独りよがりな突破を試みている一方で、ドイツ人らしい勤勉な守備とメトロノームのように正確なリズムでボールを配給し続け、輝かしいデビューを飾った。名将アンチェロッティも手放しで称賛する出来であった。大金でやってきたハメス・ロドリゲスもこの日の出来をクロースと比べられては少しかわいそうに思えるくらいであった。

そして今日彼の前所属クラブはその穴を浮き彫りにして、なすすべなく負けた。ここ数年で幾度も対戦している宿敵ドルトムントとの試合であったが、バイエルンが0点で終わった試合は多くない。それほど機能していなかったことがスコアからもうかがえる。

敗戦の要因は中盤の存在感のなさであった。前半セバスティアン・ローデとジャンルカ・ガウディーノのコンビがボランチを務めたが、3バックの慣れないビルドアップを手助けすることは出来ず、かといって前線でレヴァンドフスキのサポート役としても機能しているとは言い難かった。後半からペップはたまらずラームを中盤に投入し、ビルドアップの改善を求めたが、それが攻撃面でも良い方向に作用するまでには至らなかった。

多くのバイエルンファンはクロースがいれば、そう思ったことだろう。あのような状況を打破してきたのはクロースだったのだから。ペップは自らが連れてきたティアゴ・アルカンタラで穴は十分埋まると考えているのだろうが、怪我が多くなかなか戦力としても計算しづらいのも事実であり、この試合も怪我で欠場している。

そもそもなぜこれほど影響力の高い選手をクラブはいとも簡単に手放してしまったのだろうか。クロースが初めから新たな舞台で戦いたいという意欲からクラブに移籍を志願したのなら話は理解できる。

しかし実際はそうではない。

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