露呈した個々の戦術観の弱さ。

このポジションに本田圭佑を起用したのは、アギーレなりのメッセージだった、という解釈も恐らく可能だろう。運動量を強調する指揮官がキャプテンマークを託したことも、もっとも自己犠牲を求められるポジションに起用したことも、期待の裏返しと見れば不思議はない。とはいえ、実際はこの戦術によってピッチ内では多くの問題が発生したのだが。

本田圭佑は守備に参加しようとする姿勢は見せたものの、どうしても戻りは遅く、守備にコンスタントに参加するというタスクはこなしきれなかった。現状ACミランで右ウイングとして起用されており、中盤のサイドハーフ的な仕事に慣れていないというのもあるのだろう。3センターもスライドして守るというよりは所在無くポジションを取ることが多く、細貝と森重は中央を上手く埋めることが出来ないままだった。特に細貝は高めに出て行ってしまうことが多く、良さを出し切れなかった。ウルグアイもそれにいち早く勘付いたようで、中央に入り込んだクリスティアン・ロドリゲスが上手く中央を破るようなプレーを何度となく見せていた。

また、中盤の完成度が低いことを見せたのは2失点目のシーンだろう。2失点目の直前にアギーレは4-4-2に変更しているが、森重と細貝は3センターの感覚のままプレーしてしまっている。

動画9秒のシーンを見てほしいのだが、相手アタッカーがサイドにボールを出したタイミングで細貝と森重は2人でそこにアタック。3センターならば中央に戻っているはずの田中はサイドハーフとしてのポジションを取っているため、結局DFラインから1枚が引きずり出される形になってしまった。ウルグアイが時間をかけてくれたから失点の形は違ったものの、どちらにしてもこの形を作られてしまった時点でトップレベル相手では最早詰みに近い。こういった個々の戦術的な判断力の弱さは、どちらかというと緻密な組織力で戦う指揮官ではないアギーレにとって致命的な問題にもなり兼ねない。

一方ウルグアイは、日本が前線に当ててくるような場面が増えていると前半10分~15分辺りで理解し、中盤のアルバロ・リオスが中盤のプレスラインを押し上げることによってシンプルなボールを蹴らせ、そのこぼれ球を回収する形に切り替えてしまった。W杯でのマスチェラーノやシュバインシュタイガーのように、個のレベルで中盤を統率出来る戦術眼の持ち主の存在は、日本代表と世界の差を形作る1つの要素と言えるのかもしれない。

未だ残るザッケローニの影響と、それを利用したウルグアイの巧みさ

特に本田、岡崎はザッケローニ時代の動きに縛られており、サイドに開くというよりボランチとSB、サイドハーフの間のスペースに入って来てボールを受けようとする場面が目立った。

本来は外に張り出した状態から、サイドバックがボールを持った際に縦パスと見せかけて内側に入ってくるのがザッケローニの志向する攻撃の形だった訳だが、SBというよりもCBからの縦パスを重要視しているアギーレのフットボールでは内側に入り込んで受けていくスタイルが通用することはなかった。

むしろウルグアイは皆川へのロングボールをある程度封じた後は、岡崎と本田がこういったゾーンでボールを受けようとすることを読んでおり、容赦なく取り囲んでボールを奪い取った。ザッケローニ時のように「縦パスを意識させて相手守備陣を動かす」「外に開いて相手を引き付けてから内側に入る」といった共通理解があった訳でもなかったので、ウルグアイとしては簡単に取り囲むことが出来たのだろう。実際アルバロ・リオスは皆川へのロングボールをDFラインである程度防げると判断した後は、このエリアへの警戒を強めるように中盤をコントロールしていた。このエリアで奪われるのはカウンターに直結するということもあり、それによって危険な場面も多く作り出されてしまった。

とはいえ、しっかりと組織し直すことが出来れば、このスタイルも使えない訳ではないはずだ。特にサイドバックを攻撃に動員するという意味では、本田のキープ力を生かしていくザッケローニ式は優れている。この素地を生かしていくことも、アギーレの視野に入っているかもしれない。

【次ページ】アギーレ色、というよりメキシコ色的な部分と、予想される近未来。