先制弾のシーン。誘発させた前プレを破るアーセナルの連動。
組み立ての中で、何気なくアルテタがバックステップで左へ。右ボランチの位置にスペースを空けにかかる。
この段階ではアルテタは、バックステップでかなり左に流れた。当然、マークをするべき11番も左サイドに動いている。
ここで、アルテタが流れて空いたスペースに、ラムジーが戻る。アストン・ヴィラは一瞬遅れながらも前からのプレッシングへ。底の選手であるカルロス・サンチェスもラムジーに前を向かせないようにしようと懸命に迫る。
ラムジーは、相手のプレッシングを誘発させた上で、ダイレクトでパス。当然、ラムジーへのプレッシャーが遅れた原因の1つはアルテタのバックステップだ。
ここでチェンバレンが、ダイレクトでクッションになる。ここまですれば、相手の3センターは全員アーセナルの中盤によって誘い出されてしまっている。
そして、頼りになる中盤の防波堤が無い状態になってしまったアストン・ヴィラのDFラインがドリブルしてくるウェルベックに釣られたタイミングを見逃さず、エジルが裏へ抜け出す。これが見事に計算された、アーセナルの先制弾だった。この時、スイス代表CBセンデロスはエジルを見失っており、裏に抜け出していく相手に対して何か出来る状態ではない。中盤のプレスが機能していれば、CBの仕事は「苦し紛れに出された縦パスを跳ね返すこと」となる。そうなれば、アストン・ヴィラの守備陣は弱点を曝け出すことはない。
しかし、このように下がりながら守らなければならない状態になると、守備陣というのは脆く崩れてしまうことも少なくない。そういった場面を作り出したアーセナルの周到な準備、そして個々の貢献が大きかったといえるだろう。アルテタがスペースを空け、ラムジーが下がり、中央に絞ったチェンバレンで3センターを全員前に引きだしてしまったアーセナルの作戦勝ちと言えるはずだ。
面白いことに、アーセナルはこういった崩しを先制点のシーンまで見せていない。チェンバレンを左サイドの裏に走らせるような場面を何度か見せておきながら、勝負所では中央気味でセントラルミッドフィルダーのような仕事をさせたことは偶然なのだろうか。個人的には、アーセナルは前半30分までアストン・ヴィラの守備陣を観察し、勝負所で崩しを仕掛けたのではないか、と思っている。そして、この柔軟性こそがアーセナルの持つ武器なのだろう。実際序盤はアルテタへのプレッシャーに苦しんでいたものの、アッサリと対応して先制点にまで繋げてしまったのだから。