現地のサポーターの方との会話を通して見えてきたのは、彼らの持つ地元への強烈な愛と、「サンダーランド出身」というアイデンティティだ。世界中のスターが集うプレミアリーグにおいて、決してハイレベルとは言えない地元のクラブ。しかし誰もがみな、自分の生まれ故郷にあるチームを「世界で一番のクラブ」のように誇る。
サンダーランドで生まれ育った者としての意地や、等身大のその思いを、選手に託す。サンダーランドは、ニューカッスルに比べたら小さな街だろう。隣町の巨大な陰に、すっぽりと埋まってしまうかもしれない。
それでも、周りがなんと言おうと関係ない。サポーター達は自分たちを代表して、因縁の相手と戦う選手を全力で歌って鼓舞する。
そこにあるのは、選手たちへの愛情はもちろんのこと、それを遥かに上回る地元への特別な思いだ。街を愛する彼らが、地元のフットボールクラブを応援するのだ。熱くならない訳がない。
決勝ゴールを決めたデフォーは、試合後のインタビューで興味深いコメントを残している。
「スタジアムへ向かうバスの中で、通りを歩く子供たちが手を振ってくる様子を見かけたんだ。僕にもこのダービーに懸けるサポーターの思いというものが、強く伝わってきたよ。」
ベテランFWは、ゴールの後に見せた涙の理由を問われてこう答えた。たったひとつのフットボールの試合に、どうしてこれほどの意味が生まれるのだろうか。これはきっと、故郷を愛する人々の思いがそうさせるのだろう。
日本でも、地図上で距離の近いチーム同士の対戦は「ダービー」や「クラシコ」と呼ばれる事が多くなってきた。欧州で繰り広げられる歴史を伴ったダービーと比べると、盛り上がりでは負けてしまうかもしれない。しかしそれは、プロリーグが発足してから約20年しか経っていない日本では、やむを得ない事だろう。
筆者が取材を通して感じたのは、「ダービー」という言葉の重みだ。ライバル同士の対戦は、地域間の歴史的なライバル関係などに基づくことも事実である。だが、ダービーマッチの根幹にあるのは「サポーターの生まれ故郷に対する、いつまでも変わらない思い」、ではないだろうか。
近年の移籍市場では、莫大な金額で選手が次々とクラブを代えていく。しかし、誰が出て行こうと、入ってこようと、サポーターの気持ちは不変である。そしてそういった思いは、ゆっくりと、だが確実に、長い歳月を経て次の世代へと伝わっていく。まるで橋を架けるように。
警察が通りを埋めなければならない張り詰めたタインウェアダービーを真似る必要はないが、地元への深い愛情はフットボールをより美しいものへと変えるだろう。いつか日本でも、クラブと街に対する、こういった思いが詰まった試合を見てみたい。その時、僕らは今まで以上にダービーにのめり込めるはずだ。手を繋いでウェアマウス大橋を歩く親子を見ながら、筆者はそんなことを思っていた。
【了】
文:黒崎 灯
取材協力:Ganesh Rao
編集:結城 康平
筆者名:黒崎 灯(あかり)
プロフィール:
イングランドのサンダーランド大学にてスポーツジャーナリズムを学ぶ20代。アカデミーとユースの試合の取材を通じ、若手を中心に学生記者活動を送る。先輩コラムニストである結城康平さんに声をかけて頂き、Qolyさんでコラムを書き始めました。ご意見・ご感想はこちら
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