彼らと別れ、一足先にスタジアムへと向かう。飲みかけのビールのグラスと瓶が、至る所に放置されていた。鼻をつくようなアルコールの臭いが、ずっと付きまとう。決戦の地へ向かうほろ酔い気分の集団のボルテージは、否応無しに高まっていく。
スタジアムの周辺には、緊張感が充満していた。警察官が大声を張り上げ、サポーターの大群を統率しようとする。騎馬警官隊が、群衆をコントロールしようと動き回る。両チームのサポーターが、最も接近するこの場所は、戦意に満ちた危険な香りがして身震いがした。荒くれ者たちが次々と、スタジアムの狭い入口へと吸い込まれていく。異様な空気を伴って、試合はキックオフを迎えた。
この試合は、冬にプレミアリーグに復帰したばかりのベテランFWジャーメイン・デフォーの素晴らしいボレーシュートで、サンダーランドが1-0で勝利。ここ最近のダービーでの連勝記録を「5」に伸ばした。ゴールの後に、デフォーが涙を見せた一方で、最大のライバルを倒したサンダーランドファンたちは笑顔でスタジアムを後にした。
幸せそうな笑みを浮かべた人が、次々と家路についていく。その中でも満面の笑みを浮かべていた50代の男性の方に、お話を伺うことができた。
「デフォーのゴールが全てさ。ファンタスティック、この一言に尽きるよ。前半終了してダグアウトに戻るときに、涙を拭いていただろ?あれを見て、俺もぐっと来ちゃったね。宿敵相手にあのゴールだ、たまんないよ!」
さらに、1組の親子にも試合の感想を尋ねた。父親のほうが、先に口を開いた。
「これでダービーに5連勝だ。とてつもなく嬉しいよ、本当にね。」
ダービーの勝利を噛み締めるように語る父親を、息子は少々呆れた様子で笑って見ていた。彼曰く、これは「毎年のこと」だそうだ。
「僕も小さな頃から、父さんとスタジアムには足繁く通っているよ。気付いたらサンダーランドのファンだった。もちろん、ダービーが持つ意味なんかもよく理解しているつもりさ。僕にとっても非常に重要なものだ。さんざん、父さんから教えられたからね。」