今回のテーマは「マンチェスター・ユナイテッドはいかにして稼ぐのか」。前回からの続きです。

《その1を読む》

◆アディダス

●巨額契約を巡る駆け引き

●アディダスの苦境と対策

●MLSとUS市場

契約更新を前にシティがナイキと契約したことが若干引っかかってはいたものの、結局はナイキと契約延長するのだろう、と思っていました。ユナイテッドが破格の契約金を要求していたとはいえ、世界でもっとも売れるユニフォームの一つを手放すわけがない、と考えていたからです。

今プレシーズンにアディダスのユニフォームを着ることが許されなかった契約期間を考えても、ナイキに契約延長の意志が全く無かったとは言えないでしょう。アメリカ人オーナーであるグレイザー家に胸スポンサーにシボレー、アメリカ企業による固め打ちがより強固になると見ていましたが、予想を覆す金額をアディダスが提示した(させた)と言えるでしょう。

その額10年間で750mポンド(1364.3億円)。年間75mポンド(136.4億円)の契約は、それまでの過去最高額であるレアル・マドリーの年間31mポンド(56.3億円)の倍以上であり、破格と言えます。

ユナイテッドとアディダス、どちらが主導権を握っていたかはさておき、「強奪」が起きた背景には、アディダスの業績低迷への打開策という見方ができます。

推察ですが、ゴルフ市場での失敗などもあって、昨年の秋には通期業績見通しを下方修正する他、全米での売上ではとうとうアンダーアーマーに抜かれてしまうというショッキングな出来事がありました。世界での売上ではナイキとの2強は揺るぎませんが、サッカーだけは譲れない意地が、世界一の巨額オファーを引き出したとも言えるでしょう。

アメリカの4大スポーツにおいて、ユニフォームサプライヤーはリーグで一括契約するのですが、サッカーとて例外ではなく、メジャーリーグサッカー(以下MLS)はアディダスが契約しています。

近年盛り上がるMLSには、ヨーロッパからの大物選手の加入に触れないわけにはいかないでしょう。代表的な選手といえばデイビッド・ベッカムですが、彼を始めアディダス契約選手が目立ちます。

高まった熱はMLSの観客動員数の伸びとともに、ヨーロッパのクラブのプレシーズンの観客動員数にも現れています。ヒスパニックの増加が避けられないアメリカにおいて、今後サッカー市場が伸び悩むことは考えにくいでしょう。5大スポーツと呼ばれる日はそう遠くないのかもしれません。

この辺りを踏まえれば全米戦略と世界戦略の点から「マンチェスター・ユナイテッド」というブランドを手に入れることは「サッカー=アディダス」のイメージを強めるためには有効であると言えるでしょう。

全世界で売れるユニフォームが、更に巨額オファー分のだけ販売に力を入れるということですから、シボレーら大型スポンサーにとっても悪い話にはなりません。新しいというだけでなくサプライヤーも変わった、ということで露出はより増えます。

ベッカムや、かつての守護神であるエドウィン・ファン・デル・サールにユナイテッドの新ユニフォームを送ってプロモーションさせるあたり、本気度がヒシヒシと伝わってきます。

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