◆シボレーの広告から見えるもの

シボレーブランドの販売元であるゼネラル・モーターズは、製造販売業としては世界屈指の企業です。シボレーが、ユナイテッドのユニフォームに巨額の広告費を支払うのは、彼らにとってそれだけの価値があると見込んでいる、ということに他なりません。

販売拠点を世界中に持つ企業において、世界に放つ広告は大きな課題のひとつになります。同じ地域圏においても文化の違いひとつで取るべき戦略や制作する広告は大きく変わることがあるからです。ここに大きな労力と資金が必要となりますが、世界的人気を誇るクラブのユニフォームを介すれば、ロゴや企業名を効率的に露出させることが出来ます。

例えば、ルーニーが劇的なスーパーゴールを決めれば、瞬く間にあらゆるメディアで拡散されその日の内に全世界へ広告を放つことになります。またポジティブではありませんが、勝ってはもちろん負けても世界的にニュースになるクラブはなかなかありません。

ファンやサポーターの中には、年間50試合以上もある試合を生や録画で見続ける人もいます。1試合の2時間程度としても年間100時間前後胸にある広告と無意識に接触し続けているわけです。毎試合視聴せずとも、ハイライトを確認するだけで継続的に胸広告と接触することになります。

なお、シボレーは既に2015年末でのヨーロッパ市場からの撤退を決めており、同じGMグループのオペルがヨーロッパでのメインブランドになります。つまり年間60mドル(71.8億円)と言われる広告料は現地ヨーロッパではなく、その他の地域に向けて打たれているものと言えるでしょう。

他クラブの胸スポンサーを見ると、エアライン系(エミレーツやカタール、エティハドなど)が近年の大きなトレンドだと言えるでしょう。海外旅行や出張の際に、ドバイでトランジットした経験のある方は少なく無いと思います。エミレーツ(ドバイ)のトランジット戦略を見ても面白いのですが、ここでもターゲットはヨーロッパ内よりもそれ以外の国々の顧客だと言えるでしょう。

ドラッカーのいう「顧客創造」という企業の目的を考えれば、成熟し拡大が見込めないヨーロッパよりも、経済、人口、インフラの成長が見込める地域から稼いでくる傾向にあるのは当然と言えます。オフにツアーを組んで海外に営業活動することも避けては通れないと言えるでしょう。

ユナイテッドのみならず、Webで世界が繋がる時代においては、元々抱えているサポーターやファンの数が大きなアドバンテージなり、クラブは企業やメディアとしての存在感を纏いました。

インターネット普及率は30億人を超えたとされ、まだ普及していない43億人の9割は途上国の人だとされています。そしてスマートフォンの普及率が50%に達していない先進国もまだまだ多く、伸びしろが頭打ちになる日はもう少し先の話でしょう。

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