ヘディングの衝撃度
ヘディングについて研究した論文「側面方向からのサッカーのヘディングによる頭部衝撃の解析(生体計測)」「サッカーのヘディングによる頭部衝撃の解析」などによると、
- ヘディングをすると場所・初速に関係なく脳中心部にいくにつれ強い応力がかかる。
- 側頭にボールを受けた場合、正面よりも強い応力がかかる。
- 頭部にかかる加速度は頭蓋骨に近い位置の方が高い。ただし、衝突後は加速変化はすぐに低下する。
- 脳中心部のHIC(頭部傷害値)は衝突時に加速度が大きく影響を受けない代わりに衝突後も加速度変化が残る。
という研究結果が報告されている。
どちらにしてもHICは脳全体では約70であった。同値は、1000を超えない限りは死亡確率は0であると言われている。
つまり、「1度のヘディングでは安全」なのだ…が、1試合中にヘディング動作は繰り返し行われる。つまり、ダメージが回復しきらないうちに次の衝撃が連続してやってくるというわけだ。そのために、実際の試合、シーズンを通じたヘディングの影響は現在未知数になっていて、まだ諸説ある段階なのだ。
子供達がヘディングをするということ
そこで、実際に論文の著作者である成蹊大の和田有司助教に話を伺ったところ
「ヘディングの子供への影響が懸念されていることは承知しておりまして、子供への影響についても検討中です。 しかし、子供の計算モデルの構築など多くが準備中であり、考慮しないといけない点も多岐にわたるので現在の段階では、有害、無害のコメントを出すのは困難です」
とのコメントを頂いた。あくまで大人と子供とでは衝撃度が違い、有害か無害かの判断は現時点では難しいという。
実際に先行研究によるとヘディングは記憶障害、集中力の低下について報告されているケースが多い。一方で、それが本当にヘディングの影響からなのかは定まっていないという。
加えて、子供はいわゆる頭が大きく身体が未発達であることからバランスが悪い。へディングで椎骨動脈閉塞を起こしたケースもあるというが、これは大人では見られないことである。
サッカーにおいてヘディングはキックと共に重要な基本動作の1つである。しかし、ただでさえ90年代までに比べるとオリヴァー・ビアホフやハレド・ボルヘッティのような“ヘディングの専門家”タイプは減りつつある。
育成で重要な時期である子供達のヘディング動作が制限されれば、当然大人になってもヘディングの技術には限界があるだろう。未来のフットボールでは、ヘディンガーは“絶滅危惧種”になるのだろうか?それもまた寂しい話ではあるが…。