「いや、良くないでしょう。良かったことはチームが勝ったことぐらいですかね」

今野泰幸の戦線離脱により、急遽ボランチで起用されることになった酒井高徳。スタメン発表時までは「HSVでこのポジションを任されているので大きな不安はない。長谷部誠の穴埋め役は彼が適任」と楽観的に捉える見向きもあったようだ。しかし蓋を開けてみれば、問題点が多く見られる結果となった。彼は試合後上記のように反省の弁を口にしたが、その自己分析は正しいものと言える。

何故このような結果に終わってしまったのだろうか。

「山口蛍との急造ボランチにはそもそも無理があったから?」
「クラブで同じポジションを務めているとはいえ、その役割に大きな差があったから?」
「試合中に修正するほどの余裕がなかったから?」

理由を突き止めるのは一筋縄ではいかないだろうが、彼が露呈した問題点はあまりにもわかりやすかった。

まず攻撃面では、チームに停滞感を生む一つの要因になったことを取上げざるを得ない。

簡単なミスが気になったためか、時間が経過するにつれて縦パスのチャレンジやパス&ゴーからの飛び出しなどが減少。代わりに、DFラインへのバックパスやボランチ同士の非効率な交換ばかりが増え、前線の選手からすると「何故パスを出さないんだ」とイライラするシーンが目立った。また、DFラインからパスを受けてもタイのプレッシャーでターンが上手く出来ず、最前線へのくさびや裏のスペースを狙えるようなシチュエーションもほとんどなかった。

サイドチェンジを織り交ぜてプレッシングをかいくぐろうとする姿勢が見られ、欧州での経験で培った判断力も感じさせてくれたが、いかんせんパスワークで攻撃のリズムを作りだすことは得意としていない。長所にないところで期待しすぎることは問題だが、「何か変えないといけない」と懸命に働く姿はどこか辛そうにすら見えた。

むしろ思い切って山口蛍を前に上げ、彼はアンカーに近い形の動きに専念したほうが良かったのかもしれない。しかし、ピッチ上で大きな決断をするには時間と勇気が少しばかり足りなかったのだろう。

いずれにせよ、攻撃面についてはとにかく物足りなかった。

急造ボランチということで、自己主張がしにくい環境であったのは確かだ。だがキャプテンである長谷部誠が不在の中、酒井自身があのポジションで何かしらのアクションを起こすべきだった。監督から何か約束事を伝えられていたのか、方針転換するための余裕がなかったかはわからない。しかしクラブでキャプテンマークを巻く男だ。今後代表でも枢軸を担っていく人材であるならば、チームを動かす役割も期待したいところである。

もちろん、HSVにおけるボランチと今回の日本代表のそれとでは、役割が大きく異なっていたことは忘れてはならない。

クラブレベルでは、主に守備面にウェイトを置いている。組織的な守備の仕上げ役、最後にボールを奪うところやセカンドボールへの対応、カバーリングなどがメインの業務だ。しかし、ボールを保持しやすい展開の多い日本代表では勝手が違ったのだろう。だが、その相違はごく一般的なことであり、言い訳にすることはできない。今後の日本代表において、彼がどのような立場を築いていくのかはわからない。だが、それは彼自身の考え方や振舞い方次第で変わってくるはずだ。