「タインウェアダービー」の世界

ニューカッスル・ユナイテッドFCとサンダーランドAFCの因縁は深く、前身クラブを含めると両者の初対戦は1883年とされる。

以後、リーグ戦だけでも143試合を戦ってニューカッスルが51勝43分49敗でわずかにリード、カップ戦やプレーオフを入れると155試合で53勝49分53敗という完全なイーブンになっている。ゴール数を見ても、リーグ戦ではニューカッスルが210得点209失点、全部の公式戦では逆に222-226でサンダーランドが多い。

これほど拮抗した試合を更に盛り上げるのが、観客の熱気だ。このカードではフーリガンによる大量の逮捕者が出るのが恒例で、上の対戦データを参照した英語版Wikipediaページでもその騒乱ぶりが列記されている。

2000年にイギリスで“Purely Belter”という映画が公開された。ニューカッスルに住む2人の少年がユナイテッドのシーズンチケットを買おうと奮闘する悲喜劇で、沈滞した空気感とスタジアムの熱気が明暗のコントラストとなって描かれている。

『シーズンチケット』という邦題が付いたこの作品に出演したのはニューカッスルの大エース、アラン・シアラーだが、彼もその6年後、引退表明の後に出場したこのカードでゴールを決めた後、サンダーランドの選手からタックルを受けて負傷交代。結果的にこれが最後の公式戦出場となった。

こちらは“Purely Belter”の制作18周年を記念してニューカッスルの映画館で行われたイベントの告知画像。中央のシルエットにシアラーがいる。なお、この主人公の二人の俳優は実はサンダーランドファンだったというオチが日本語版パンフレットのインタビューで明かされていた。

イングランド北東部にあるこの2つの街は、「タイン・アンド・ウェア州」という行政区にまとめられるほどに近い。タイン川の水運を活かした石炭と造船で発展したニューカッスルと、近年では日産自動車のイギリス進出地になった製造業の街のサンダーランドは17世紀のピューリタン革命以来の対立が残るとされ、その強い感情がサッカーに影を落とした。

イングランド北東部にはもう一つ、2016-17シーズンはプレミアに復帰していたミドルズブラFCがあるが、両チームともこことの試合では直接対決ほどのトラブルが起きない。

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