サポーターの狂騒とサッカー事情
佐藤は2022年からインドネシアの強豪プルシブでプレーしている。同国は東南アジアで最もサッカーが熱い地域といわれており、その熱さは狂騒と言えるほど。2022年10月のリーグ戦後に観客らがピッチに乱入し、130人以上が将棋倒しになるなどして死亡する悲惨な事件が発生した。佐藤は身をもってサッカーの狂気を体感している。
――ここからはインドネシアの話をうかがいます。まずはプルシブに移籍した経緯を教えてください
タイのラーチャブリーでプレーしたあとに、プルシブからオファーが来ました。タイに残る選択肢もありましたが、タイで3年やって自分の中で新しいことにチャレンジしたい時期でしたね。プルシブがビッグクラブだと分かっていましたし、ファン・サポーターが熱い。選手にとってプレッシャーが大きい中でプレーすることにすごく魅力を感じました。
サッカーがどれだけ上手くても、サッカー選手はプレッシャーの中でいかにやれるかが自分の中の美学にあった。その中でやりたいとすごく思ったので、行くことに決めました。
――これまでタイ、ルーマニア、デンマークとプレーされてきましたけど、インドネシアはいかがですか。
インドネシア1部リーグはサポーターが熱い分、いろいろ大変なことが多いですね。サッカー熱は他の国と比べ物にならないぐらい。特にプルシブはすごい数のファン・サポーターがいます。この中でできることはサッカー選手として1番幸せなことというか、他のヨーロッパの国に行ってもビッグチームやチャンピオンズリーグに出ているチーム、もしくはプレミアリーグなら経験できるかもしれないですけど、なかなか経験できることではないと思っています。ここで経験できたことは自分の中で1番の財産で、本当にいい経験ですね。
――東南アジアでもインドネシアはサッカー熱が激しいと聞きます。
東南アジアでは群を抜いて1番だと思いますね。悪い面もあったりします。僕たちもビッグマッチになると装甲車で試合に行きます。装甲車で行かないとバスが相手チームのサポーターにぶち壊されちゃう。
――危険すぎますね…。
(装甲車の中は)エアコンが付いていなくて、試合前は汗だくになりながら(笑)。本当にそれくらい危ないです。何試合か勝てないとサポーターが怒っちゃって、ピッチになだれ込んできます。
昨シーズンはそれがあってリーグが中断しました。130人ぐらい亡くなっちゃったんですよね。安全面でいったらあまりいいリーグではないと思うんですけど、サッカー選手としては1度経験してみたいことをインドネシアリーグで経験できる。そこは本当に最高ですね。
――インドネシアのサッカーはレベルが高いですか。
正直タイのほうがレベルは高いですね。個人の技術や戦術理解力はタイが高いと思います。でもどっちが難しいかと聞かれたらインドネシアが難しいと思います。レベルの話ではなく、どちらがリーグとして難しいかといわれたら間違いなく僕はインドネシアリーグが難しいと思いますね。
サポーターからのプレッシャーや、インドネシアリーグはフィジカルというか、スピードが速いですね。タイは状況によって落ち着いてやる場面でコントロールしながらしますけど、インドネシアはサッカーがすごく速いです。
――ゲームスピードが早いということですか。
ゲームスピードが早いですね。最初からバーっといっちゃう。最初からすごいスピードで繰り返してきます。インドネシアは野性味があふれていますね。
――インドネシア人の選手のメンタリティーを教えてください。
メンタル面で言ったらそんなに強くはないですね。でも別の角度から見ればメンタル面が逆に強くなかったら、多分インドネシアではやれないと思います。サポーターからのプレッシャーはすごく大きいので。
僕たちプルシブが勝った週は国のヒーローのように扱われますけど、負けたときは犯罪者なんじゃないかと思っちゃうぐらい罵倒されます。どこを読んでもそんな記事ばかりです。
――サッカー熱が高すぎると大変ですね。
そうですね。僕の解釈としてはインドネシアサッカーが発展するにはファン・サポーターたちにサッカーをもっと知ってもらわなきゃいけない。素人みたいな意見がすごく多いんですよね。だからインドネシア代表もすごく大変だと思います。代表活動中はみんなインスタグラム(Instagram)をオフにしています。そうしないとメンタルがもたない(苦笑)。
――インドネシアでの印象深いエピソードを教えてください。
僕たちは昨シーズン優勝争いをしていましたけど、シーズン開幕はすごく大変で、勝てない時期が続いてなかなか勝てなかった。サポーターたちはもちろん怒ってオフィスの前に700人くらい集まって、警察もオフィスの前で防ぐために300人ぐらい集まりました。
それでサポーターは「監督を代えろ!」、「監督を出せ!」、「アウト!アウト!アウト!」とね…。本当にそれを見たときはびっくりしましたね。そのときは練習場にもサポーターたちが選手を罵倒しに来るんですよ。練習中にずっとゴールキーパーに野次を飛ばしているサポーターが一人いました。僕たちのゴールキーパーに海軍の選手が一人いて、その選手はいつも物静かなんですけど、怒らせたらもう本当にヤバい人です(苦笑)。彼がブチ切れちゃって練習場のフェンスを飛び越えて、そのサポーターの首を壁に押しつけていましたね(苦笑)。
激しいエピソードばかりですね。昨シーズン最終節はなにもかかってない最終節だったんですけど、結果的には1-4で負けました。サポーターたちが怒ってピッチになだれ込みました。そのときは試合途中の85分でしたけど、審判も試合を終わりにしました。僕たち選手たちはロッカールームに駆け込むと、サポーターの何人かがロッカールームまで入ってきました。そこでキャプテンも怒って、「入ってきたやつ全部ぶっ飛ばしに行くぞ!」とすごい揉み合いになった。僕たちからしたら「セキュリティーはどこにいんだ?」って話になるじゃないですか。そういうエピソードが多いですね。
――アジア杯でトラブルがないことを願いたいです。
インドネシア開催じゃないので(笑)。国際大会はセキュリティーがしっかりしているので大丈夫だと思います。