チェフに代わってその場を受け継いだティボー・クルトワは、確かにスーパーな若手だった。

2011年にチェルシーと契約を結び、そのまま3年間にわたってアトレティコ・マドリーにローン移籍していた23歳のベルギー代表。スペインでの武者修行中にリーガ、コパ・デル・レイ、ヨーロッパリーグを戴冠し、チャンピオンズリーグでも準優勝を経験してきた。

それだけにチェルシーの正GKという大役を任されても、とても20代前半の選手とは思えない堂々たるプレーを披露。『Sky Sports』で解説を務めるギャリー・ネビルには、「リーグ前半戦のMVP」とまで言わせた。

ただ、それでもチェフからすれば辛い状況だっただろう。

何しろそれまで世界最高峰のGKとして名を馳せてきた選手が、「実力を保持したまま」ベンチに座っているわけだ。他のチームなら間違いなくレギュラーを張っているだけに、多くのビッグクラブからオファーが届き、そのまま1月の市場で移籍してしまうものと思われた。

ところが、そうはしなかった。市場の締め切り直前を迎えると、ツイッターにファン向けの素晴らしい残留メッセージを投稿し、最後までブルーズに尽くす覚悟を表明した。

【日本語訳】 "Blue is the colour!" …それは変わらなかった。皆さん、おやすみなさい…

結局、2014-15シーズンの出場数は全コンペティションで16試合にとどまったが、わずかな出番の中でも極めて重要な仕事をし、プレミアリーグとリーグカップの制覇に大きく貢献。特に2月11日のエヴァートン戦(1-0でチェルシーが勝利)で見せたスーパーセーブは、タイトルレースの行方を確実に左右した。

この活躍に、二番手降格を決断した張本人であるジョゼ・モウリーニョ監督も感情を大きく動かされていた。

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