それにしても、なぜ彼ほどのスター選手が1月に移籍しなかったのだろう。実戦から遠ざかれば遠ざかるほど試合勘が薄れるのは明白だし、レギュラーを取り戻せる可能性もほぼ皆無だと分かっていたはずだ。

ここからは推測の話になるが、そこには2つの理由があったように思う。1つはチェルシーに対する恩返しの念、そしてもう1つはある先輩の影に自身を重ねたためではないか。

カルロ・クディチーニ(41)。2000年から2009年1月までチェルシーに在籍したクラブレジェンドのひとりだ。

入団から4年間、正GKとして不動の地位を築き、ゴールデングラブ賞やチェルシーサポーター選出の年間MVP賞を受賞。その活躍ぶりは、イタリア国籍ながらイングランド代表への帰化待望論が出るほど高く評価された。

そんな名手が2004年、同じように「実力を保持したまま」二番手へ降格した。そしてその理由となったのが、同年に次代を担う若手としてチェフが加入したためだった。

奇しくもクルトワと同じ年齢でチェルシー入りし、同じモウリーニョ監督の下で躍進したチェフは、揺るがないと思われたクディチーニの立場を一変させる活躍を見せ、そのまま正GKの座を掴んだ。

一方で、ポジションを奪われても不満ひとつ漏らさずトレーニングに励み、出番が来れば衰え知らずのハイパフォーマンスを披露する先輩を一番近くで見てきた。多数のオファーを断って残留したことも知っていただろう。

そんな状況が4年半続いた後、クディチーニはもう一花咲かせるべくトッテナムへと移籍していったが、彼ほどの実力者が常に準備を整えていたことで最高水準の競争を経験した。結果、これが若きチェコ人の才能を世界レベルへと開花させた。

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