■レスターの工夫。何故マンチェスター・ユナイテッドの守備は崩壊したのか。
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まずは動画1分5秒ほどからの1失点目。これは一見新加入のDFマルコス・ロホがミスしただけのようにも見える。
だが、前回のコラムでも述べたように、ファン・ハールの守備システムは「相手の攻撃を単純化」させることを目的としている。つまり、このように相手の攻撃を単純なロングボールに誘導したのにも関わらず失点してしまうとなると、前線からの狙いは成功したのに組織全体としては機能していないことになるのである。しかし、現状マンチェスター・ユナイテッドの守備陣は「単純な攻撃」を跳ね返すことが得意な選手が多い構成ではない。プレミア経験が長く、長いボールを跳ね返すことを得意としているフィジカル自慢の選手がいる訳でもない中で、相手にロングボールを蹴らせることは必ずしも失点の確率を下げることにはならないのだ。
だからこそ、オランダ代表でファン・ハールは徹底的に5バックを採用することによってリスクマネジメントをこなしたのだが、マンチェスター・ユナイテッドでは現状怪我人の関係もあって4バックで戦っている。そうなってくると、どうしてもCBと比べると空中戦の弱いサイドバックが狙われることになり、競り負けた際にカバーすることも難しくなってくるのである。底でプレーするブリントもサイドを崩された時にDFラインのサポートをする余裕はなく、数的有利も作られやすい状況で守らなければならない。現実問題、ナイジェル・デ・ヨングやマスチェラーノのような守備の達人でもなければ、この戦術でDFラインの前を支えながらカバーをこなすのは難しい。
実際、ニュージェントとジェイミー・ヴァーディーで徹底してロングボールでサイドバックの裏を狙い続け、時にはCBをサイドに誘い込むようにFWを外でプレーさせるレスターの攻撃は巧みで、何度となくこのスペースからチャンスを作り出した。PKになったヴァーディーの突破も、ロングボールからの競り合いでサイドバックのラファエルを狙ったもので、狙いが綺麗に決まっている(下動画)。
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更に、レスター指揮官ナイジェル・ピアソンが「ディ・マリアの交代が大きかった」と述べたことも注目に値する。時に左サイドバックの位置にまで戻るなど、献身的に働いていたディ・マリアを下げると、中盤が一気に崩壊。4失点目、5失点目ともに薄くなった中盤からカウンターを受け、若きCBブラケットに過大な負担がかかる場面を作られてしまうこととなってしまった。
ディ・マリアに関しては、コラムの前半で攻撃を機能させる柔軟性に着目したものの、献身的な運動量での守備も大きな武器だ。ボランチの位置に選手が入れ替わりながら落ちていくシステム自体は攻撃では面白いが、カウンターを受けた際に保険となるカバーが効きづらいという問題点もある。だからこそ、ルイス・アラゴネス指揮下のスペインで圧倒的な運動量と献身性で中盤を助けられるマルコス・セナが起用されたように、中盤の守備面におけるリスクマネジメントという課題は避けて通ることが出来ない。実際、ファン・ハールの秘蔵っ子であるダレイ・ブリントはカバーするエリアがそこまで広いタイプではないことから、どうしてもサポート役として運動量のある選手を必要とする。結果的に、攻守でディ・マリアに依存するシステムになってしまっているのだ。
勝利のために考えられた手としては中盤にフレッチャーやバレンシアを投入し、敵の攻撃の起点となる中盤でのセカンドボールを摘み取ることだろうか。また、バレンシアの存在はカウンターを受けにくいサイドの深い位置からの攻撃を起点にすることを可能にする。中央での難しいボールを繋いでいく美しい崩しが常に直線的なカウンターに直結する一方で、サイドの深い位置に運んでいくことは相手のスピードをコントロールすることが出来る。中盤の底を支えるブリントのサポート要員を増やすことや、交代によって安全な方向に攻撃を調節することは、カウンターのリスクを減らす上で必要な決断だ。怪我から復帰するフェライニのフィジカル面での強さも、使い方によっては時計を上手く進めることを可能にする。
そういった意味で、マンチェスター・ユナイテッドはファン・ハールの求めるフットボールをこなせている訳ではない。怪我人が復帰してくれば、恐らくリスクの少ない5バックに戻すと思われるが、それでも守備陣が肉弾戦に弱いのは大きな問題だ。マンチェスター・シティやチェルシー、アーセナルやリバプールは個人能力で組織に対応出来るレベルのストライカーを備えており、プレミアリーグ全体の財政面が好調なことから、下位チームにもフィジカル面で戦えるストライカーは多い。直面するプレミアリーグの現実と、自らの理想の狭間で―オランダが生んだ稀代の現実主義者は、一体どのように問題を解決していくのだろう。
筆者名:結城 康平
プロフィール:「フットボールの試合を色んな角度から切り取って、様々な形にして組み合わせながら1つの作品にしていくことを目指す。形にこだわらず、わかりやすく、最後まで読んでもらえるような、見てない試合を是非再放送で見たいって思っていただけるような文章が書けるように日々研鑽中」
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