ペジェグリーニのアプローチ
同様にヤヤ・トゥーレという不確定要素を抱えるペジェグリーニではあるが、明白なチームの完成度の差を利用するように、彼らは不確定要素を生かすように攻撃と守備を組み立てた。
まずは左サイド中心の攻撃だ。ヨベティッチとアグエロという、どちらかというと機動力を重視したコンビネーションで前に出ていくフェライニの背後を突くようなサイド攻撃。こうなってくると、先にも述べたように中央に閉じる意識を強めていたウイングのサポートも期待出来ない。
上の画像2枚は7分にシティが攻撃を仕掛けた場面だが、フェライニは前線に残っており、ウイングの守備におけるサポートも足りない状態で人数をかけた攻撃を仕掛けられたことで、センターバックが釣り出されてしまっている。こうなれば、裏に抜け出す能力に優れたアグエロは水を得た魚だ。何度となくチャンスを作り出していった。この左サイドからの攻めはDFラインの基準点となる中央のMFブリントをサイドに釣り出すように攻めることで、バランスを崩していく効果もあった。
左サイドからの攻撃では、スピードでCBを振り回すアグエロに連動して、ミルナーが裏に抜け出すような場面も見られた。オフサイドに救われたものの、CBはアグエロに意識が向いており、危険な場面だったと言えるだろう。
試合の決め手となったスモーリングの退場も、ある意味ではシティの執拗な左サイド攻めから生まれたものだ。フェライニとブリントの2人が中途半端に釣り出され、スモーリングが遅れてカバーに行ったところで相手を倒してしまい、2枚目のイエローカードを貰ってしまっている。1枚目のイエローは擁護出来ないものの、アグエロのマークという難しいタスクに加えて、徹底的なサイド攻めに晒されたスモーリングの負担が過多だったことは否定出来ない。
囲まれているボランチのところでボールを扱うことを避け、左からの攻めでフェライニの背後を狙うことでブリントの位置をずらし、中央で薄くなったヤヤ・トゥーレを生かす。それがマンチェスター・シティの狙いだった。相手の不確定要素を攻め、自分たちの不確定要素を生かす。
攻撃だけではない。守備でもヤヤ・トゥーレという不確定要素を補うチーム戦術はある程度は出来上がっていた。この場面はカウンターを奪われ、ヤヤも出てきてしまっているのでカウンターに気をつけなければならない場面だが、この後ヨベティッチが激しいプレスでヤヌザイを止めている。この場面ではファールにはなってしまったものの、ヨベティッチとアグエロによる厳しい前からのプレスは、ヤヤ・トゥーレの戻りの遅さを何度となくカバーするものだった。特にステファン・ヨベティッチはルーニーのお株を奪うように献身的に身体を寄せ、徹底してカウンターを防ぎ続けた。
また、ヤヤ・トゥーレが前にプレスをかけるために出た時には、ヨベティッチとミルナーが中央のカバーを意識。前からのプレスでカウンターを封じ込め、全体の連動で穴を埋めていった。ヤヤの後ろに備えるコンパニも、縦への鋭い出足によって中盤の埋めるべきスペースを封じ込めることで貢献。チームとしてヤヤ・トゥーレの持つ弱点を補ったマンチェスター・シティと、フェライニの持つ問題が結果的に戦術によって強調されてしまったマンチェスター・ユナイテッド。明暗の分かれる結果となった。
この結果は、不確定要素のコントロールは緻密である必要があるということを示唆している可能性がある。試合の少ないW杯では、ある程度の思い切りの良さによる不確定要素のコントロールに成功したファン・ハールだが、チェルシー戦やシティ戦といった強豪との試合では大雑把な不確定要素のマネジメントに失敗しているように、出来る限り迅速に「チームにおける適切なバランスを発見すること」が求められてくるだろう。特にダービーでは、中央からサイドにポジションを移されて消える時間が増えたディマリア、ヤヤ・トゥーレのマークというアタッカーには難しいタスクを託されたことで攻撃に集中しきれなかったルーニー、守備での貢献が時間を経るごとに減って行ったフェライニと、様々な不確定要素が悪い方向に絡み合ってしまっている。
大雑把なリスク・マネジメントをこなすために守備の基盤を作り上げるか、個々を生かすために特性を理解し、細かなリスク・マネジメントをチームに仕込むか。勿論数シーズンの上積みがあるマンチェスター・シティに簡単にこういった面で追いつく事は難しいかもしれないが、赤い悪魔にはトップレベルであることが求められている。どのようにこの課題に取り組むのか。今後もファン・ハールは難しい日々を過ごすことになりそうだ。
筆者名:結城 康平
プロフィール:「フットボールの試合を色んな角度から切り取って、様々な形にして組み合わせながら1つの作品にしていくことを目指す。形にこだわらず、わかりやすく、最後まで読んでもらえるような、見てない試合を是非再放送で見たいって思っていただけるような文章が書けるように日々研鑽中」
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