もう一つ。

途中帰国や海外視察も挟みながら、アギーレ監督は日本に3ヶ月いましたが、この国の気質をまだ理解できていないのかもしれません。サッカーで言うならば、「誤審には寛大だが不正には非常に厳しい」という所です。

Jリーグでも、今までミスジャッジを理由に審判のキャリアを棒に振った人はほとんどいませんが、仮にこれが故意だった場合、絶対にそうは行かないでしょう。逆に、吉田寿光主審がタイでの試合で八百長を持ちかけられ、これを断った後で、試合後にAFCに報告した事が報じられるほどです。

日刊スポーツ
「タイFA杯で日本人主審に八百長誘い」(2013年2月20日)
http://www.nikkansports.com/soccer/world/news/p-sc-tp3-20130220-1087597.html

ジーコやピクシーが嘆いた頃からは良くなったでしょうが、まだ「ミスをしても笑っている」という風潮は消えていません。ただ、それは「少なくとも精一杯やった」という一種の満足感の裏返しで、「下手なのは仕方がないが、ずるは決してやっていない」という部分につながります。もしそこで、勝つためには手段を選ばない、ルールを破ってもばれなければ良いという考えの選手が入っても、いずれはチームから排除されるでしょう。良くも悪くも、日本はそういう社会です。

勝ち残るため、生き抜くために血みどろの戦いをフィールドの上で39年続けてきたアギーレさんがこれを理解するのは、アジア杯やW杯予選で勝ち抜くより難しいかもしれません。ご本人はプロフェッショナルのプライドを賭けて、絶対に日本代表監督の仕事を4年間全うするつもりでしょうが、サッカーに留まらないこの日本の流儀、「エスティーロ・ハポネス」に苦しむと、それが危ぶまれる事態になるかもしれないと、この会見からは感じられました。

筆者名:駒場野/中西 正紀

プロフィール: サッカーデータベースサイト「RSSSF」の日本人メンバー。Jリーグ発足時・パソコン通信時代からのサッカーファン。FIFA.comでは日本国内開催のW杯予選で試合速報を担当中。他に歴史・鉄道・政治などで執筆を続け、「ピッチの外側」にも視野を広げる。思う事は「資料室でもサッカーは楽しめる」。
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フェイスブック: masanori.nakanishi

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