筆者はこの試合を見ながら、随筆家として知られる坂口安吾が将棋の木村14世名人について述べた一節を思い起こしていた。
名人戦の第六局だかで、千日手になるのを名人からさけて出て、無理のために、破れた。自分を犠牲にして、負けた。その意気や壮、名人の大度、フェアプレー。それは嘘だ。勝負はそんなものじゃない。
フットボールは結果だけではない。ある意味では美学だ、と主張する人もいるだろう。木村14世名人も千日手を避けるという美学を貫いたあげく、敗れた。
しかし、マンチェスター・シティという強豪チームを率いて、CLにおいて美学と共に殉ずることが本当に正しいのか、私には解らない。攻撃的に振る舞いつつ、リスクをマネジメントするというバランスを取る事も可能なはずだ。
ペジェグリーニのバルセロナとの対戦成績も、相手の強さ故に当然厳しい戦いになることが多いとはいえ、満足出来るものではない。
指揮官になってから25戦で、4勝4分け18敗。レアル・マドリード、マンチェスター・シティといった強豪を率いた名将にとって、バルセロナは常にキャリアにおいて直面する厚い壁だ。
プレミアには昨シーズンから、「勝利への異常なまでの拘り」で君臨するSpecial One、ジョゼ・モウリーニョが戻ってきた。マンチェスター・シティが更に先に進み続けたいのであれば、何かを変えないとならないのかもしれない。
ロベルト・マンチーニの遺産が消え去りつつ今、守備における変化は間違いなく長期戦では必要だ。マヌエル・ペジェグリーニが、マンチェスター・シティが、必要に迫られてその美学を捨てる時―。そこにあるものが輝く金脈だと、筆者は信じている。