それは思わぬチャンスだった

≪東京・新橋の横浜ゴム本社、「浜ゴムビル」≫

- 本日は東京モーターショーでの取材に引き続き、快くご対応いただきまして本当にありがとうございます。それでは、まず横浜ゴムという会社について、簡単にご説明下さい。

田中:当社は1917年創業のゴムメーカーです。本社はこの新橋で、研究拠点は平塚にあり、日本各地や世界各国で製品を作っています。工業用製品やゴルフ事業も手がけていますが、売上の約8割は自動車用タイヤが占めています。

- 事業の中でゴルフ用品も手がけられているとうかがいましたが。

田中:1983年に「PRGR」(プロギア)ブランドとしてゴルフクラブやボールなどの生産・販売を開始しました。市場では高品質なブランドという評価をいただいています。今年は契約している小平智プロが男子の日本オープンゴルフ選手権で優勝し、女子ツアーでは原江里菜プロがツアー優勝しました。当社全体の中では核とまでは言えませんが、ゴルフは当社の事業部門の一つです。

≪「PRGR」サイトで紹介された小平智選手の日本オープン優勝記念キャンペーン告知画像(キャンペーン自体は既に終了)≫

- 他に御社が関わられているスポーツは何でしょう。

田中:やはりタイヤメーカーですので、製品開発にも関わりが深いモータースポーツへの支援があります。ゴルフとモータースポーツが、当社のスポーツ活動では大きな部分を占めています。

- サッカーでは、今年のJ1クラブでは横浜F・マリノスと湘南ベルマーレのスポンサーをされていますね。

田中:特にベルマーレさんは平塚に本拠地があるので、当社のCSRパートナーとして協力しています<注:ベルマーレとは2007年にオフィシャルクラブパートナー、2012年にCSRパートナーとして契約。同社の平塚事業所は、ベルマーレのホーム・湘南BMWスタジアムのある平塚市総合運動公園の南側、道路の向かい側>。弊社の平塚製造所で行なわれる地元住民のかた向けのイベントなどにもベルマーレさんにご協力頂いております。これは完全に地域貢献の一環としての活動です。

- お話から、元々横浜ゴムがスポーツへの理解が深かった事は分かりました。

ただ、今回のチェルシーFCとのスポンサー契約は、従来の範囲ではおさまらない、全社あげてのプロジェクトになっています。元々はチェルシー側からのオファーだったそうですが、どういう経緯だったのでしょうか。

関口:はい、昨年(2014年)のちょうど今頃、向こうからお話をいただきました。それから速いペースで交渉が進んで、ほぼ3ヶ月で一気に契約までこぎ着けました。

- 本当に早いご決断ですね。

関口:当時ヨーロッパに駐在していて、なぜ日本以外でのシェアが低いのか、グローバルマーケットで売れないのだろうかと考えていましたが、やはりブランド認知度が低いという結論になりました。当社ではモータースポーツに力を入れていて、「SUPER GT」<市販車を改造したツーリングカーで行われる日本トップレベルのレース>や「WTCC」<世界ツーリングカー選手権、2006年から供給>にも協賛していましたが、やはりその範囲でとどまっていたのです。

改善案を社内で考えていた所に来たチェルシーからの話は、確かに大きな金額でしたが、良いタイミングでのチャンスだったと思っています。元々サッカーにスポンサーをしようかという案も出ていました。

- やはり、売上高の中で海外での比率を上げたいというご希望もお持ちだったのですね。

関口:「GD100」でも挙げましたし、中長期的な市場展望でもそうです。もちろん日本市場は大切ですが、競争も激しく、パイも限られています。欧州は日本と同じ様な状況ですが、アメリカと中国はこれからもまだ伸びますし、世界中の自動車メーカーも注目しています。東南アジアもこれから車社会になるでしょう。そういう発展の見込める地域にサッカーファンが多い、中でもチェルシーは人気があるというのも、今回のスポンサー契約の理由になっています。

- すると、今までチェルシーと日本との関係が薄かったのは、必ずしもマイナスではなかったのですね。

関口:チェルシーが強い欧州やアジアで私達は認知度やシェアを伸ばしたいので、そこにチェルシーのお力を借りたい、逆に私達が強い日本や健闘しているアメリカではチェルシーをお助けできる部分があるだろう、そういう互恵関係が成り立つと思っています。

- そして2月に新シーズンからの契約を発表し、実際に「YOKOHAMA TYRES」のロゴ入りシャツを最初に着用したのがアメリカでのプレシーズンマッチだったと。

関口:それは先方の希望でもありました。元々予定が組まれていたようですし、チェルシーも私達もアメリカ市場で伸ばしたいという意図があります。

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