「ウォルト・ディズニーですら、脚本を書けない御伽噺だ。彼にこの脚本を見せたら、やり過ぎだと言われてしまうに違いない」

伝説的なレスターの元選手は、レスター・シティの躍進をこのように表現した。

多くのフットボールファンは「自分の孫に、語り継ぐべき瞬間を見た」と言った。

サイモン・ヒューズ‏記者は、「世界中の指導者達は、これから選手達に何度となく『我々もレスターのようになれる』と言い聞かせて鼓舞するだろう」と綴った。

5000倍の倍率を跳ね除けて優勝した奇跡のフットボールクラブとして、彼らが辿ってきた道のりを語ろう。

世界で最も経済力に優れたリーグである英国、プレミアリーグ。シーズン開幕前には大型補強を繰り返し、全体で見れば他リーグとは比べものにならないほどの資金を投下した。

その中でレスター・シティは、大きな注目を集めたクラブではなかった。実際、Bleacher Reportが選んだ「2015年夏市場、注目の補強ベスト16」にはレスター・シティの新加入選手は入っていない。

アーセナルが守護神ぺトル・チェフを獲得し、マンチェスター・ユナイテッドがアントニ・マルシャルやバスティアン・シュヴァインシュタイガーを加える。マンチェスター・シティも盤石の体制を整え、ケヴィン・デ・ブライネやラヒーム・スターリングを獲得した。当然、潤沢な資金力で世界の才能を集めたトップクラブが注目の的となる。

一方、レスターが獲得した新戦力は、マインツから日本代表FW岡崎慎司、カーンからMFエンゴロ・カンテ、ストーク・シティからCBロベルト・フート、シャルケからSBクリスティアン・フックス。

チームの主軸として活躍した選手達が加入したが、決して前評判は良いものではなかった。獲得した選手の大半はプレミアリーグでの経験が豊富なわけではなく、どこまで戦力として計算出来るのかがハッキリしなかった面もあるだろう。2014-15シーズン、レスター・シティの1部残留に貢献したチームMVP、元インテルのエステバン・カンビアッソが抜けたことも、大きな不安要素として専門家からは指摘されていた。

ジェイミー・ヴァーディ、ウェズ・モーガン、ダニー・ドリンクウォーター。

2部では絶対の主力だったが、1部リーグでは少し物足りない。シーズン前は、彼らの評価もこの程度のものだった。ヴァーディは線が細く、モーガンはポジショニングに難がある。ドリンクウォーターは、中盤での激しいプレッシャーに耐えられるだけの技術がない。

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