チームに加わってからも、クラウディオ・ラニエリは大きく動かなかった。カスパー・シュマイケルは、「新しい監督として全てを自分好みに変えようとしなかったことこそ、ラニエリ監督が最も優れていたところだった」と説明する。ラニエリも「レスターの選手達が戦術的に細かいことを指摘されているのを恐れているのは解っていたので、そこに関して突っ込みすぎることは避けた。彼らを信頼していることを告げ、戦術については部分的に説明するだけにした」とインタビューに答えている。

経験豊富なイタリア人が辿り着いた答えが、「戦術への拘りを、部分的に捨てること」だったのは興味深い。イタリア紙のインタビューにおいてラニエリは、「現状出来る全てを選手に出し切らせることを第一にして、その後に少し戦術の話をすることにした」とレスターでのアプローチを説明している。

しかし、説明を減らすことは「分析を減らす」ことではない。ヴァーディによれば、「ラニエリは夜通し相手チームの動画を見ながら、個々のプレーを分析する。監督は60本程度の動画を見て『49回はこの動きをした、11回はこの動きをした』ということを教えてくれた」とのことだ。

元々ASローマ時代は比較的オーソドックスな4-4-2の使い手であったこともあり、レスター・シティのスタイルに近かったことも幸運な偶然だった。ラニエリが最も得意としたオーソドックスなスタイルでのフットボールを志向するチームに、イタリア的な守備を融合することに成功したのだ。

マフレズは何度となく練習場でラニエリに「戻ってポジションを取り直せ!!」と怒られたと語っているが、彼の守備力も別人のように向上した。フィジカルバトルに自信を持っていたフート、モーガンの両CBを中心にDFラインも安定。岡崎が引いて相手を追い回すことで作られる4‐5の守備ブロックは強豪でも容易には侵入出来ないものだった。カンテが中盤でボールを奪い、バランスを整えるドリンクウォーターがカウンターの起点になる。

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