鹿島の首脳陣が、クォン・スンテを獲得するや否や、すぐに彼に正GKとしての役割を与え、率先して彼を起用している。
それはシーズン開幕前のニューイヤーカップから直近のACLまで一貫した考えだ。もちろん、その手法は、Jリーグ未経験の実力者を早く慣れさせるためには的確かもしれない。だが、それが、懸念材料を生み出していることに、最近気付かされた。
筆者が、現在の鹿島に抱いている最大の懸念点。「守備陣とクォン・スンテの連携面」である。
今季は試合を見るたびに、少しやりづらそうな守備陣の動きにどうしても目がいってしまう。
特に、守備陣とGK間において、情報共有が求められるシチュエーション。誰でも対応できそうなクロスボールへの対応であったり、「DFラインの背後に送られたボールに対して誰がいくか」の判断が問われるシーンであったり、「人にいくべきかボール行くべきか」をフィールドプレーヤーとゴールキーパーの連携で処理しなくてはならない状況において、かなりの確率で「連携ミス」が多発しているためだ。
ACLのムアントン・ユナイテッド戦での2失点目。格好としては、グラウンダーのクロスボールに対してクォン・スンテが右手で触れたが、コースが変ったところに相手選手が待ち構えており、植田直通のシュートブロックもあえなく、無人のゴールに蹴りこまれた状況だった。
グラウンダーのクロスボールは、見送っても差し支えないコースを通過していったので、「クォン・スンテが無理に触りに行く必要があったのか」という疑問は残ったが、それよりも、ここでは、クロスボールが放り込まれる際にDF陣に対してのコーチングがしっかりと行き届いていたどうかが気になった。
試合画面を通しては、選手達の声を確認することはできないが、少なくとも、クォン・スンテは右手でチームメイトに何かしらの指示を送っていたかのようには見えた。だが、最終的には、チームの敗戦を決定付ける失点へと繋がってしまった。もちろん、加入直後から伝わりやすい日本語でコーチングを行うことは容易でないだろう。しかし、ただでさえ、サポーターの大声援などで、コーチングがしっかりと聞き取れないピッチ上において、フィールドプレーヤーとスムーズな連携を取ることはゴールキーパーにとっては必須の仕事である。サッカーには、「声一つ」で防げる失点は多くあり、味方を的確に動かすことで、ゴールキーパーの仕事量は格段に減ることは言うまでもない。
「最高の試合は、被シュートゼロでの完封勝利だ」と、どこかのゴールキーパーが語っていたことを覚えているが、それはある意味、ディフェンスの理想郷であり、誰もが求めたい形である。だが、新たな守護神と再出発した鹿島は、この理想が叶えられそうな気配を漂わせるブロックを形成するまで、多くの時間と労力を費やすことになるだろう。
無論、鹿島がクォン・スンテを獲得したこと自体は間違いだとは思っていない。
彼は可能性を感じさせてくれる力を持っているからだ。少なくともこれまでの鹿島では失点になっていた決定機を切り抜けるケースは増加するはずだ。だが、長年、ゴールマウスを護り続けてきた「ソガ」が、再び最後尾に君臨すれば、昨季に何度も見られた“守備陣の安定性”が戻ってくるのではないとも思っている。
「安定性ではなく、可能性に賭ける」
これが王者の下した答えである。だが、どこかで考え直さなくてはならない局面が訪れるのではないだろうか。筆者の不安をサポーターたちが抱えないことを祈りたい。