澤田由佳=「“やっかいな場面”でもボールを受けられる選手」
今季を迎えるにあたり、2部昇格を勝ち取ったバニーズの主力選手はほぼ残留した。この日も、そして金星を挙げた前節も、昨季のフィールドプレーヤーの主力9人が先発を担っている。ただ、<4-3-3>の布陣のピッチ中央に位置してパスワークの軸となったアンカー、MF澤田由佳(対戦相手・伊賀に移籍。この日は怪我で欠場)が抜けた。
この日、そのアンカー役を担ったのは、バニーズ加入3年目で22歳の若手MF林咲希(背番号11)。そして、62分の選手交代後は、2シーズン前にこのポジションを務めていた32歳のベテランDF山本(背番号6)が務めた。
千本監督は澤田が抜けた穴について「澤田には澤田にしかできないことがあるように、林には林にしかできないこと、山本には山本にしかできないことがあります。ですので、澤田の役割をそのまま他の誰かに託すということはありません」と述べ、バニーズのサッカーを構築するうえで最も大切である選手個々の特徴を活かす考えにブレはない。
その上で、筆者は澤田由佳という選手をひとことで表現すると、「“やっかいな場面”でもボールを受けられる選手」だと考えている。
例えば、ハーフウェイラインより自陣側でボールを持った味方が行き詰まり、相手に囲まれた。あと0.5秒後には確実にボールを失う。サッカー経験者の多くが「こんな所で絶対にボールを受けたくない」と思ってしまうような“やっかいな場面”でも、彼女は積極的にパスを受けにサポートに入ってくる。それも1m未満の最短級のパスをいったん後ろ向きにトラップし、瞬時に斜め前に持ち出して相手のプレスを回避していく。
また、地味ながら彼女が得意とするDFラインに下がってボールを受ける動きも、実はかなりの技術と共に、「勇気」を必要とする。代表クラスの選手でも、この動きで致命的なミスを犯して失点に直結するケースは何度となくある。このようなプレーを何事もなかったかのようにこなすのが彼女の魅力だ。
自陣側でのプレーであるため、ミスは失点に直結はしても、得点に直結する場面ではない。それでも彼女が数的不利の局面を回避することで、ピッチ上の他の局面ではバニーズの数的有利が至る所に出来る。よく守備面で「危機察知能力」という表現が用いられるが、澤田は「攻撃の危機察知能力」に長けた選手なのだ。
つまり、澤田の穴は、ゲームを組み立てる能力やセンスというよりも、“やっかいな場面”でもボールを受ける「勇気」や「メンタリティ」ではないだろうか?そして、試合後に千本監督が言葉にした「チームとしてやろうとしていること、やれることをやらなかっただけです」とは、こういうメンタル面の欠如のことではないだろうか?