教科書は最初の20ページが大事!
昨季はインサイドMF、今季からアンカーを務めているMF林は、試合後以下のように話していた。
「アンカーになってからは、最終ラインからのビルドアップの工夫を求められています。ただ、今日は個人的なミスが多かったのと、相手のプレスには慣れてきているはずなのに、一人一人のポジショニングや選手間の距離が悪く、結果的に相手の方が人数をかける局面が多くなってボールを奪われることが多かったです。
プレースタイル的に同じ土俵で戦うわけではないですが、セカンドボールの回収や前線からのプレスの連動に合わせた中盤・最終ラインの上げ方などの基礎的なところはもっと考えないといけないと思います」
と、敗因を述べたうえで、
「相手がどの選手に喰いついているか?で、自分のポジショニングや味方に要求することが変わったりします。そういうことを常に考えながらプレーしないといけないので難しい部分はあります。
でも、私はムサタン(※)やバニーズのようなパスを繋ぐサッカーが好きです。ただ、それをこのレベルの試合でするなら、もっと頭を使わないといけないです。チームとしても、もっと細かいところまで拘わらないといけないと強く感じました」
と、バニーズのサッカーについて話しながらも、現状の課題を述べた。
(※林の母校・武蔵丘短期大学女子サッカー部シエンシアの略。“日本のポゼッションサッカーの第1人者”と称される河合一武元監督が在任最後に10番を託したのが、林だった)
どんな教科の教科書でも20ページ目ぐらいまでに最も重要なことが書かれていて、それ以降は応用や例題、ケーススタディで占められている構成が多い。「止める、蹴る、運ぶ」という基本技術の高さに重点が置かれるバニーズのシステムは、まさにそんな「教科書」のようなサッカーなのかもしれない。
ただ、社会に出てから教科書で学習したことがそのまま活かされるような場面には出くわさない。同様にサッカーでも、ピッチの上で教科書通りに展開が進むことはない。また、社会でもピッチの上でも全く同じ状況が2度起きることは皆無に等しい。
「実戦経験」が多い選手ほど、ページ数の多い教科書を持っているはずで、バニーズではDF山本やMF松田が持つモノは分厚く、林のそれは2人に較べるとまだまだ薄いだろう。これから新たなページを作っていけばいい話だ。時に8ページ目辺りに書かれている「パス&ゴー」を思い返し、15ページ目くらいの「チャレンジ&カバーの守備」を復習しながら。
そして、試合後の取材でこの日の結果に対し「悔しさしかないです」と一言した直後、FW西川は大粒の涙を流した。彼女のように情熱をもってサッカーに取り組む選手がいる限り、バニーズ京都は毎日の積み重ねの中で、今日よりも成長した明日を迎えることができるだろう!
「NEXT(次へ)」=「勝っても負けても『次』のゲームへ向けて万全の準備をすることで、これまで積み上げてきたバニーズらしいスタイルで今シーズンをぶれずに戦い抜く」とは、今季のバニーズ京都のスローガンである!
筆者名:新垣 博之
創設当初からのJリーグファンで女子サッカーやJFLを取材するフットボールライター。宇佐美貴史やエジル、杉田亜未など絶滅危惧種となったファンタジスタを愛する。趣味の音楽は演奏も好きだが、CD500枚ほど所持するコレクターでもある。
Twitter: @hirobrownmiki