指揮官はドイツ育成改革の旗手
自らリスクを冒しながらも勇敢に戦う今季の広島のサッカーは観る者の心を打つ。
サッカー観戦にありがちな、「今、シュート撃てよ」との閉塞感がなく、躍動感やスピード感を伴うため、観ていると感情移入して応援したくなる。
そんなチームを今季から指揮するのは56歳のドイツ人、ミヒャエル・スキッベ監督。
ドルトムントやレヴァークーゼンなど母国の強豪クラブを率いた実績をもつことが各メディアで紹介されているが、筆者にとってのスキッベとは、「ドイツ育成改革の旗手」である。
ドイツは2000年のEUROでグループステージ敗退。屈辱的な結果と旧態依然としたサッカーの内容を危惧し、国家レベルでの育成改革をスタートさせた。
国内全土に336か所の拠点を設けて10歳から15歳までの優秀な選手約15,000人を選抜し、自チームとは別に週に1度、ドイツサッカー協会認定コーチの指導を受けるという大プロジェクトが成功した。
個のスキルアップに主眼が置かれた指導をするため、各地に派遣されたコーチは1,200人と推定されていた。その大勢のコーチたちにドイツ協会が推奨する欧州最先端の技術や戦術指導を伝授する「指導者の指導」の陣頭指揮を執った人物が、スキッベだった。
改革の成果は如実に出た。それまで「ゲルマン魂」による敢闘精神だけで語られていたドイツサッカーに、メスト・エジルやマリオ・ゲッツェ、トニ・クロースなど高度なテクニックや豊かなアイデア、閃きを武器にする技巧派MFが急増。
戦術的にもマンマーク守備が基本だったドイツ全体にゾーン守備が浸透。若い選手たちの運動量やスピードを武器に、前線からボールを奪いにいくプレッシングで守備と攻撃を連結させた。
ドイツらしい効率的で合理的な戦術は世界最先端のトレンドとなり、2014年、ドイツは満を持してW杯優勝を遂げた。