変貌を遂げた新・大黒柱、野津田岳人
そんな広島のサッカーを牽引しているのが、ヴァンフォーレ甲府へのレンタル移籍から2年ぶりに復帰した野津田岳人だ。
第16節、ホームでの名古屋グランパス戦で値千金の直接FKによる決勝点を挙げたMFは、「やっと『ただいま』、と言えます」と、感慨深げに話し、続く第17節のセレッソ大阪戦でも豪快な左足ミドルを決めた。
広島ユース時代、野津田は高校年代最高峰の高円宮杯プレミアリーグで2年連続のチャンピオンシップMVPを受賞するなど、同大会を3連覇。高校3年時にJ1デビューを飾り、将来を嘱望された。
28歳となった現在の野津田は、述べ4チーム計4シーズンのレンタル移籍を経験した「さすらいのJリーガー」となっていた。しかも、昨年在籍した甲府は彼にとって初のJ2でのプレーだっただけに、このレンタル移籍は「片道切符」になると噂された。
それでも中学時代から在籍するクラブ愛を貫いて復帰した野津田は、2列目のポジションで得点もアシストも量産が期待された頃とは異なった姿を見せている。
前半戦終了時、1試合平均のタックル数でリーグトップの3.8回を記録し、1試合で13km以上を走ることもあるダイナモ型ボランチへと変貌を遂げているのだ。
もともと体躯が良く、フィジカルコンタクトも強い野津田は運動量も決して少なくはなかったが、チームのためではなく自分のために走っているイメージが強かった。
それがベガルタ仙台でポジショナルプレーの枠組みを深く理解し、甲府ではボランチで年間通してプレーするなど、経験を積んだ現在はワンタッチプレーが格段に増えた。
何よりもチームを優先する意識が強まった。相手と体をぶつけ合う肉弾戦に挑んでボールを奪い、チームのために走ってセカンドボールを拾い、シンプルに前線の選手にパスをつけていく新しい姿だ。
面白いことにチームを優先することで野津田の特徴は消えるどころか、活きるようになっている。徹底したサイド攻撃の副産物として中央にスペースが生じ、野津田の強烈な左足が火を噴く場面も増えて来ている。
地味な役回りなために取り上げられる機会が少ないが、現在の野津田はチームの大黒柱だ。