試合のデータは「こう見れば面白い」というポイント

まず龍岡さんに見てもらったのは、試合の対戦カードのデータだ。チームのこれまでのスタッツ、得点パターン、ゴールやアシストのランキング、そしてピッチ上の動きを示すホットゾーンのエリアだ。

龍岡さんがここで注目したのは「得点パターン」であった。「サッカーというのは最終的に点を奪うスポーツです。ボールを保持する時間が長くても、それがゴールに繋がっていない場合もあります。クロスの数が多くても、それが得点になっているのかどうか。そのチームがどのようにゴールを導いているか、というのは重要なデータですね」。

また、「このようなデータは蓄積が重要なんです。シーズンの序盤はそれが足りないので、どの選手が出てくるか、どこが強みでどこが弱みなのか、数値の信頼性が欠けています。したがって、後半戦にこそ分析官の強みがより現れてくるのではないでしょうか」とも話していた。

データを分析するにはそのための材料がなければいけない。「監督交代ブースト」はあるのかどうか…ということはよく話題に上がるが、相手チームに分析を難しくさせるという効果は大きいはずだ。

そして次に見てもらったのは、各チームにおける選手ごとのデータだ。パス数やシュート数、走行距離など様々な項目があり、それぞれの選手の記録がランキング形式に集計されている。

そこで龍岡さんが注目したのは、「スプリント数」と「走行距離」の項目だった。

「走行距離とスプリント数は同じ『走る』ことに関する項目です。ただ、スプリントをしないにもかかわらず走行距離が長い選手もいますし、その逆もあります。例えば横浜F・マリノスではアンデルソン・ロペス選手が両方で上位にいますが、エウベル選手はスプリントがトップで走行距離はランキング外です。これは、エウベル選手が『走るタイミングや場所がいい』タイプだからだと思います」という。

「逆にスプリント回数が少ないにもかかわらず走行距離が長い遠藤保仁選手のようなタイプもいます。それぞれの『走り方』が出る項目ですね」と、その関係性の面白さを教えてくれた。

そして、プロの目から見て意外に注目すべき項目は「こぼれ球奪取数」であるとのことだ。一見地味な数字であるが、実は最も重要なものの一つだそう。

「サッカーは結局ボールを奪わなければ攻撃できないスポーツです。流れの中で攻守が切り替わるのがセカンドボール。それを誰が最も多く取っているのか。地味な選手が入ってくる項目ですが、『実はとても重要』な存在がここにいるんです」と龍岡さん。

ただ、「これらのデータで出ているチームの『強み』は、一方で狙い所にもなります」とも。「逆に言えば、セカンドボールを多く拾っている選手を封じれば、そのチームの良さを消すことができるんです」。

そのチームの強みとして出ている上位のデータが、あるときには相手に狙われるポイントにもなる。このチームは何を生かそうとしているのか、相手の何を消そうとしているのか、データを見てそのようなことを考えながら試合を見るのも面白そうだ。