筆者は以前に『変容する「9番」の価値と役割』というコラムを書き、その中で

『バルセロナ、スペイン代表の活躍によってパスサッカーがトレンドとなりつつある現代のフットボールシーンでは、「9番」つまり純粋な点取り屋の価値・役割が変化している』

といった内容をセスク・ファブレガス、アンディ・キャロルを具体例として示しつつ述べたが、ちょうど1週間前に行われたポーランドのスタディオン・ヴロツワフで行われた「日本×ブラジル」の一戦からもこの風潮を見ることができた。

・ついに試合開始から試された『本田の「0トップ」』

ザッケローニは「9番」であるハーフナー・マイクと佐藤寿人を差し置いてトップ下が本職の本田圭佑を0トップとして起用し、その後方に清武弘詞、中村憲剛、香川真司を配する布陣でブラジルに挑んだ。

ザックジャパン発足以来2度目となるこのチャレンジは、筆者にとって大きな驚きだった。

なぜなら、ザッケローニは8月15日に札幌ドームで行われたキリンカップのベネズエラ戦で初めて『本田の「0トップ」』を実戦で試したが、

「今の時点で言えることは、われわれが目指すサッカーの中で、本田のポジションはトップ下が適正だということです」

引用元→(http://samuraiblue.jp/fanzone/ilmiogiappone/vol16.html

と試合後にコメントしており、もう一度テストするとは(しかも相手はブラジル)考えていなかったからだ。

フランス戦ではハーフナーを1トップに据えたザッケローニだったが、世界トップのブラジル相手に『本田の「0トップ」』を試し、戦術プランの再考やザックジャパンを支えてきた前田遼一が不在時の引き出しを増やしておこうという意図が読み取れた。

・強豪相手に確かな手応え

肝心なのは『本田の「0トップ」』がどれだけ機能したかということだが、強豪相手に確かな手応えを掴めたと言えるだろう。

本田の特徴であるフィジカルの強さはチアゴ・シウヴァ、ダヴィド・ルイスといった世界屈指のセンターバック相手にも通用し、自ら惜しいシュートを放つなど積極的にゴールを狙う姿勢も健在だった。また、フランス戦ではなかなか前線にボールが収まらなかったが、ブラジル戦では本田のところでしっかりとボールが収まり、攻撃のスイッチとして機能した。このことは、キックオフから前半15分くらいまで続いた良い流れの要因として挙げられる。

結果的に得点を奪う事ができず、前田の存在の大きさを改めて感じることになったとはいえ、今後も『本田の「0トップ」』を実戦で使っていく価値が十分にあると感じさせる内容であった。

・ブラジルも「0トップ」気味の布陣

上図は日本戦におけるブラジルのスタメンである。最前線に本来左サイドが主戦場のネイマールを置き、右に迫力満点のプレースタイルが特徴のフッキ、左に現代屈指のアタッカーであるカカ、トップ下に進境著しいオスカルを配する「0トップ」気味の4-2-3-1で日本を迎え撃った。

ブラジルと言えば、数々の優れた「9番」を生み出してきた国である。2000年代の「9番」には、ロナウド(インテル、レアル・マドリーなどでプレー)、アドリアーノ(フラメンゴ)、ルイス・ファビアーノ(サンパウロ)、アレシャンドレ・パト(ミラン)といった選手たちが挙げられるが、いつの時代も「怪物」と称される「9番」が君臨していることがブラジルの強さの秘訣だろう。

現在のブラジル代表でその「9番」の系譜を継ぐのが日本戦で途中出場したレアンドロ・ダミアオン(インテルナシオナウ)だ。ロンドン五輪で活躍し、欧州のメガクラブから注目を浴びる逸材であるが、コパ・アメリカでベスト8に終わるなど過渡期を迎えているブラジル代表で定位置を掴むことは容易ではないはずだ。

実際、日本戦と同じシステムで戦ったイラク戦ではカカ、オスカル、フッキ、ネイマールがそれぞれゴールを挙げて6-0の快勝を収めた。この4人のカルテットは日本戦でも威力を発揮し、日本のサッカーファンに強烈なインパクトを残したが、マノ・メネゼス監督が志向する『前線の4人が流動的に動く「9番」不在のスタイル』が軌道に乗ってくれば、ダミアオンはオプションとしての起用が主となるだろう。サッカー大国ブラジルでも徐々に「9番」の価値・役割が変化しつつあるというのは大変興味深い現象である。

・「9番」は廃れない

ここまで、「9番」の価値・役割が変化してきたことを「日本×ブラジル」の一戦から読み解いてきた。近年は「偽9番」という言葉が台頭し始め、その「偽9番」を用いたバルセロナ、スペイン代表が結果を残し、そのメソッドを多くのクラブ・代表が取り入れるなど流行となりつつある。ポーランドで日本とブラジルが披露したスタイルは現代のフットボールシーンを端的に表していると言っても過言ではない。

では、このまま「9番」は淘汰されていくのだろうか。この問いの答えが出るのは恐らく先の話だが、筆者はこの問いに「NO」と答えたい。

「9番」の最大の武器は何と言っても「ゴールへの嗅覚」だろう。ゴール前でこぼれたボールに素早く反応し、ボールをゴールに押し込む姿や豪快なダイビングヘッドは観る者の心を熱くさせる。フィリッポ・インザーギ(現在はミランの下部組織の監督)やラダメル・ファルカオ(アトレティコ・マドリー)のゴールシーンに「男気」を感じるのは筆者だけではないはずだ。

また、「9番」には圧倒的なフィジカルを誇る選手も多い。小柄なテクニシャンの価値が上昇しつつある現代において、その強さ、迫力は欠かせないものになるだろう。実際、昨シーズンのプレミアリーグを制したマンチェスター・シティでは、エディン・ジェコがパワープレーの切り札として優勝に大きく貢献した。「ゴールへの嗅覚」「圧倒的なフィジカル」は「9番」の専売特許であり、戦術がどれほど進化・発展しようとも、「戦術の存在を無力化できる」彼らの存在は廃れないと言える。

これからのフットボールシーンで「9番」がどのような運命を辿るのか。筆者も『「9番」の行方』を注意深く追っていきたい。

2012/10/23 ロッシ

※選手表記、チーム表記はQoly.jpのデータベースに準拠しています。


筆者名 ロッシ
プロフィール 『鹿島アントラーズと水戸ホーリーホックを応援している大学生。ダビド・シルバ、ファン・ペルシー、香川真司など、足元が巧みな選手に目が無いです。野球は大のG党』
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