我慢とはこのことなのだろう。赤い悪魔を愛する全てのもの達は我慢をする時だ。私の長々と読みにくいコラムも含めて耐える時だ。

【出ない結果と苦しい内容】

かつて、といってもほんの半年前くらいの話。あの頃のユナイテッドはどこにいってしまったのか?と問われるとなかなか苦しい。稀代の名将サー・アレックス・ファーガソンの力はコレほどまでに偉大であったのかと、思い返すものだ。ただ、その名将とて就任当初からカップを掲げていたわけではないことをお忘れではないだろうか。もちろん、サー・アレックスが1986年にユナイテッドに就任したころと今とでは大きく状況は異なる。が、偉大なる成功者は多くの失敗を糧にして多くのタイトルを積み上げてきた。成功ばかりではない。偉人というのは、しばしば良い業績だけ伝えられることが多い。汚点や失敗は形骸化してしまうことがあることは、歴史を学べばよく分かる。過度の美化と神格化は危険性を孕む。

話を進めよう。試合展開そのものはこれまでもよくあるパターンのものだ。なかなか点が獲れずに、カウンターから失点。ただしオールド・トラフォードという舞台では、大抵「ハッピーエンド」で終わることが多いものだった。しかしこの試合ではそうはいかなかった。同点に追いつき、シアター・オブ・ドリームスのボルテージは上がっていくものと思われたが、勝ち越し点を奪われ勢いは削がれてしまう。終盤に掛けて圧力を強めるがミスも散発し追いつけず、残念な結果を本拠地が覆った。

【中盤、最終ラインと戦術】

前節のダービーでは、相手を見過ぎた故に、前線からいかずにラインを上げなかった、と分析したのだが、この試合でもその様子はなさそうだった。メンバーが開幕から数試合とは異なるからなのか、前から積極的に追いかけ、ロングボールを蹴らせて、高いラインがボールを回収する様子は伺えない。チェルシーやリヴァプール相手に勝ち点3を得られなかったがものの、手応えはあったように見られたハイプレス・ハイラインのディフェンスは、たった数試合で放棄されてしまった。スピードの無いセンターバックは、これによってリスクヘッジされていたのだが、前線からのプレッシャーが緩いことで、余裕を持ってビルドアップされてしまい、中盤のフィルターもかかり切らずに、全体が間延びしてバイタルエリアにスペースを与えてしまってやられている。アンデルソンのポジショニングや軽い対応に終始したファーディナンドの対応が直接的な失点の原因であることは明らかだが、全体の問題としては、バレンシアやファン・ペルシーが出場していた開幕からの数試合とは異なり、前線からのネガティブ・トランジションが遅く、緩く、統一、連動されていないことに問題があるとみていいだろう。ここを改善しない限り、最終ラインは今後もさらに後手を踏むことになるだろう。

ここ数試合、ファーディナンドは集中力を欠いた、非常に散漫なプレーが目立つ。やはり連戦にはもう耐えられない故に、使い続けるモイーズが悪いのか、はたまた本人の衰えがより顕著なのか。共に可能性はあるが、昨シーズンの素晴らしいパフォーマンスがたった半年でどこかに行ってしまったとは考えにくい。

【香川交代の意図】

日本のメディアや彼のファンを騒がせているのが、香川が前半45分で交代し、後半開始にはピッチにいなかったことだ。満足のいく出場機会を得られていない香川ではあるが、モイーズからの信頼を勝ち得られずに、厳しい状況だと度々報じられている。ということもあって、モイーズは香川を好まないのではないか?との見方をされていることが多いようだ。最もこれが真実かどうかはチームメイトや本人たちにしか分かり得ないことだが、香川を45分で替えた意図は試合を観ていれば決して理不尽なものではなく、しっかり理由付けできるのだと私は以下のように考える。

① 香川とチチャリートのプレーの相性が予想以上に良くない。

② 中に絞ったポジショニングが目立った状態では、左サイドがサイドバックのビュトネル1人になり、厄介なセセニョンへのケアが後手になっていた。

③ 故に、サイドアタッカーを入れることで①②の問題は改善される。

とのことでヤヌザイとの交代になったのだろうと個人的には推測する。

①に関しては、これを同時に起用したモイーズに責任はある。香川はサイドで起用されれば、独力で突破をしかける能力に長けているわけではないので、どうしてもパス交換からチャンスメイクする場面が多くなる。足元の技術に優れないチチャリートでは互いにプレーの幅と精度が低くなってしまう。チチャリートの良さはリーグカップでのリヴァプール戦にあったように、ゴールに向かうボールに対して一瞬でマークを外してフィニッシュすることだ。彼にペナルティエリア、いやゴールエリア内でのフィニッシャーの役割以外を求めるのはなかなか難しい。

②については、香川は中央に絞ってのプレーがしばしば見られた。もちろん香川は自分が活きるためのポジショニングだったのだろう。実際ボールを持てば技術の高さは見せていたし、アンデルソンへのアシスト未遂もあった。しかしながら味方に上手く使われているかと言えば、難しいだろう。逆に味方を上手く使っている感じも残念ながらない。WBAの右サイドにいたセセニョンが非常にキレのある動きを見せていたので、香川の開けたスペースに上がったビュトネル1人でセセニョンを任せるのは厳しい。ビュトネルと香川が二人で挟んでも突破された場面あり、ここで後手に回るのは避けたかったのだろう。

③ 故に、純粋なサイドアタッカーを投入すれば、ポジションを離れること無く、基本的には相手のサイドアタッカーを二枚で監視できるし、サイドからのクロスや突破ができれば、相手のアタッカーを牽制しつつチチャリートの活きる場面が増えるだろう、と考えたのだと推測する。そこで出てきたのがヤヌザイだった。若さ故の粗削り感たっぷりの若者はミスもあったが、サイドからチャンスメイクもこなしていた。ただしセセニョンを抑えられていたかと言えばそうでもないので判断が難しいところだ。故に香川贔屓からのモイーズの采配は疑問符だらけなのだろう。個人的にはある程度筋が通ったロジックにみえるのだが、結果が出なければそうなってしまう。

結局のところ、ゴールという結果が出ない限り、モイーズの中での香川の優先順位が上がることはないだろう。劇的に状況を打破するためには明らかな結果が必要である。香川のドイツでの輝かしい日々は、ルール・ダービーでのセンセーショナルなゴールによって道が開かれたとも言えるし、かのパイオニア、中田英寿も開幕戦でのゴールが起爆剤となり、一気に信頼を勝ち得た。中村俊輔もスコットランドの地で劇的なゴールを幾度と無く見せたことで今でもセルティックのレジェンドの1人として認識されている。

ゴールこそチームを勝利に導く最高の薬であることは言わなくても分かる。ユナイテッドはゴールを量産できるFWがいるために、そこへの供給ルートをいかにして構築するか、という課題があることを見ないわけではない。しかし争いなのだ。チームメイトを蹴落とすくらいの覚悟とプレーを見せなければならない。ルーニーは素晴らしいパフォーマンスを続けており、仮に香川がトップ下を望むのならば簡単なことではない。ただしそれを覆すだけのパフォーマンスを見せる覚悟がなければこの世界ではやってはいけない。食うか食われるか。誰もが納得する結果を残せないものに未来はない。居場所は与えられるものでなく勝ち取るものなのだ。共存は理想だが、生ぬるいこと言っている場合ではない。

ただ、そうは言っても今のルーニーを上回るパフォーマンス、というのは現実的ではない。ドルトムント時代のようにトップ下が一番輝くといっても日本代表ですら本田が優先されており、左サイドが定位置だ。もちろん左サイドで活きる方法がないわけではないだろう。ただそれにはファン・ペルシーとルーニーの出場が前提で、且つ前線が理解ある流動的なポジショニングをすることが最低限求められるだろう。世界トップクラスの万能型CFが二枚いることは香川にとってアドバンテージだと思うが、いかんせん、香川の現状を考えるとなかなか訪れないだろう。なんにせよまずはモイーズを納得させるパフォーマンスと結果を出すことが求められることに変わりはない。ゴールなのだ、ゴール。全体のバランスを見る選手も大事だが、もっとエゴイスティックにプレーすべきだ。

【負のループを断ち切るには】

こういった試合はファーガソンが指揮をしていた頃にも沢山あった。ただしファーガソンは最終的な結果で黙らせていた。いきなり独裁的に堂々と指揮しろ、というのも難しい話なのだが、今のユナイテッドは色々と舐められている感が強い。もちろん、全ての相手を威圧するようなオーラと実績を備えたファーガソンが現場を退いたことが起因していることは間違いない。ただしそれに頼らないことを求められているのはわかりきっていたことである。チーム作りとはこうも難しい。

悪い流れを断ち切るにはハードワークありきだ。待っていても結果と内容はついてこない。効率よく洗練されたシステムは魅力的だが、それは動かずにポゼッションしてボールを回すことではない。激しく、攻撃的であってこそマンチェスター・ユナイテッドだ。何度も申し上げるが、開幕したころのフットボールに戻すべきだろう。まずはそこからだ。

料理上手の母の元、関西で生まれ育ち関西のダシで生活してきた人間が、関東出身の嫁をもらって、関東のダシに3か月ほどで慣れるのはなかなか難しい。サー・アレックス・ファーガソンという生活習慣から抜け出すことは容易ではないのだ。

一部では解任がどうのこうの言われているが、現状では現実的ではない。誰だっていきなり成功と結果を手にするマネージャーや選手が欲しいものであるが、目先の結果が大事でないということではないが、短期的な成功よりも長期の成長を見ているユナイテッドとしては、失敗を糧に出来るかどうかの方が遥かに重要である。結果がでなければ容赦なく叩かれ、結果が出れば手のひら返しで賞賛されるのはどこに行っても同じだ。ユナイテッドほどのクラブではそれが容赦なく世界中からやってくる。安易に采配を批判し解任を叫ぶのは簡単だ。ただし改善案・代替案を同時に持ち込まなければ価値はゼロに等しい。

あなたは「勝ち続けて強かったサー・アレックス・ファーガソンが率いたマンチェスター・ユナイテッド」のサポーターですか?「香川真司」のサポーターですか?「マンチェスター・ユナイテッド」のサポーターですか?


筆者名:db7
プロフィール:親をも唖然とさせるManchester United狂いで川崎フロンターレも応援中。
ホームページ:http://blogs.yahoo.co.jp/db7crf430mu
ツイッター:@db7crsh01

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