【やはりポゼッションよりもトランジション】

この試合もポゼッションを保って試合を進めていたがやはり上手くはいかない。無論、メンバーやそのポジションの都合仕方ない部分もあったのだが、チームとしても個々人としてもやはり共通するスキルベースにばらつきがある以上どうやっても限界がある。普段の練習からある程度パターン化したトレーニングを行い、ベースが出来上がっていればいいのだが、そんなことはファーガソンの頃から行われているとは思えない。相手を押しこみ狭いスペースでボールを回して崩せる何かを全員、もしくは一定数の選手とスタッフが持っていない以上、その状況で苦しむのは必然だとも言える。

球技の基本でもあるのだが、ボールを持っている限り基本的には主導権はボールホルダーにあると言っていい。バスケットボールなどとは違ってボール保持に時間制限がないフットボールでは、ミスしない限りボールを保持し続けることが出来る。もっともゴールがなければ勝てないのでそこに行き着くまでに幾つものチャレンジとミスを冒すのだが、ボールを持つ時間がながければ長いほど、数多くの主体的選択を求められる。ユナイテッドの場合、ボールを持てどもあまりの選択肢の多さに選手が何を優先して選ぶかがバラバラであり、明確な狙いと意図があまり見えてこないことが多い。無機質なパス交換とポジショニングを繰り返しているうちにスペースは埋められ、狭いスペースを崩しきるスキルを持たない選手達は徐々に自らの首を絞めている。

ボールの出し手の動きも、受け手の動きもあまり質が高いとは言えず、その場凌ぎのパス&レシーブを繰り返しているだけではなかなか引いた相手は崩せない。ポゼッションすることで5W1Hが途端に曖昧になってしまうのはファーガソン時代から何度か見られた光景だが、基本的には特定選手(エース)を活かすという手法のためにあまり問題化しなかった。それがクリスティアーノ・ロナウドであったり一時期のルーニーであったり、去年のファン・ペルシーだったりするわけだ。ボールを保持して崩せそうなところを探りながら細かいパス交換して崩しにかかる、なんてまどろっこしいことはせず、その時その時のエースに仕事をさせようとしてきたフットボールにおいては選択肢が多すぎて何を選んでいいのか分からない、なんてことはなかったと言う方が正しいかもしれない。

ある程度積極的に仕掛けることで、ミスは起こりカウンターを喰らえども、逆カウンターになれば相手の後ろと自分たちの前にスペースが生まれるというメリットのほうが大きいのだ。ボールを保持して攻め込まれる機会を減らすのはいいが、自分たちが崩せもしないのでは元も子もない。意図的にトランジションを減らすことが自分たちの首を絞めていたに気がつかされたシーズンであったとも言えるだろう。これまで述べてきたことはヤングを例に挙げれば非常によくお分かりいただけるだろうか。彼はやはりカウンターで活き、ポゼッションで死ぬ選手である。