ベンテケが左サイドから中央へ侵入することで、GKグリーンの重心はわずかに左に寄った。
重心だけではない。実際にほんの少しだけポジションも左にズレている。
その瞬間を、ベンテケは逃さなかった。
背後からさらに相手DFも迫っていたため、強烈かつ狙いすましたシュートを打つための余裕こそなかったが、GKグリーンがあけた右サイド(ベンテケから見て左サイド)へと簡単にボールを流し込む。
ゴールのシーンをもう一度見てみよう。
ベンテケは何も難しいことはしていない。
ただタイミングを見計らい、その瞬間にゴール左隅へとボールを蹴っただけだ。ベンテケの武器である強烈なフィジカルコンタクトもアクロバティックなシュート技術も発揮していない。
そのためか、ベンテケはゴール後喜びを爆発させなかった。ゴールは嬉しかったに違いないが、いかにも「当然」という顔でサポーターのもとに近寄っている。
もちろん、このゴールは相手選手との駆け引きが生んだ部分はある。しかし、ゴール前での冷静さこそ、ストライカーが最も簡単にゴールを奪うために必要な要素であることを教えてくれた。