二人の上司を持つ男

記念式典の最後で登場したのは、鈴木寛でした。間違いなく彼こそ、この協定の仕掛け人です。

「すずき・ひろし」の本名以上に、自分の公式サイトでも使うほど「スズカン」の呼び名で知られる彼は、東大法学部から通産省(当時)の官僚に進んだ後、民主党の参議院議員となって2期12年勤め、民主党の鳩山・管両政権で文部科学副大臣や東京五輪・パラリンピック招致議員連盟の事務局長を経験しました。2013年に落選後、2014年には東大と慶應の教授に同時就任し、さらに自民党の安倍政権でも文部科学大臣補佐官を務めるなど、幅広い分野でその能力が認められている文字通りの「切れ者」です。

そして、灘中学・高校でサッカー部だった彼は、2014年3月からJFA理事にもなっています。「今日は迷ったがJFAのネクタイを締めてきた。こんなに嬉しいことはない、人生のメモリアル。日本やアジア、世界の未来を切り開くだろう。2人いる私の上司に御礼を言う」という鈴木の興奮は本物でしょう。

その鈴木が指摘したのが、東京大学ならではの事情です。

間違いなく関係者全員が「都の西北」を歌えるであろう早稲田大学や、先生は創立者・福沢諭吉しかいないと徹底されている慶應義塾大学と違い、東大には「軸」がほとんどありません。学部だけで毎年3000人以上の学生が入り、10学部を基盤にした研究テーマは幅広く、その全容は誰も分かりません。しかも特に官庁へ行った場合は「大学の同期が最大の出世ライバル」になる例が多いので、同窓会に頼るという発想がかなり乏しいです。

安田講堂に集まっていた東大の学生・院生や卒業生達はみんなそれを知っているので、鈴木が「サッカーという切り口で200近い研究室が集まった」と言ったのには驚いたでしょう。

ただ五神総長の講演の中でも、「スポーツ先端科学研究拠点の発足は、東大としては異例で、どこの研究科も大賛成だった」という話が確かにありました。もちろん「スポーツはしょせん娯楽」と言い切った槇文彦のような人もいるでしょうが(新国立競技場問題を見る限り、建築学科にここに入れるだけの「品質」があるとは全く思えません)、人文社会系を含む多くの東大教員(と恐らく学生・院生)は自分の研究が楽しくて人の役に立つ方向で活かされる事に強く期待しているのです。

ダイレクトに言えば、「赤門はサッカーに飢えている」と。

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By Gussisaurio

<東大の代名詞、赤門(日本語版Wikipediaより)>

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