「ポジショナルプレー」については上述の通りだが、それを極めるのは容易いことではない。
このスタイルで世界の最高峰に君臨しているのが、ペップ・グアルディオラが率いるマンチェスター・シティだが、彼らのレベルに達するには一筋縄ではいかず、彼らもいくつかのハードルを乗り越えた上で築き上げてきた。
その一つが「相手の敵陣深くにボールが置かれた時のポジション(前線からの守備)」である。
シティは、遅攻だけではなく速攻においても圧倒的な破壊力を見せるが、それが実現できているのは、攻から守への切り替えの早いから、厳密に言えば、「攻撃が終わった時に各選手が正しいポジションを取り、なおかつプレッシングの強度が高いため」だ。
逆にそこが破綻すれば、一気にピンチに陥ることになるのだが、フロンターレ戦におけるマリノスはそのサンプルになりそうなシーンがいくつも見られた。
以下はその代表的な一つである。
①プレッシングにおける初期ポジション
前半9分、バックラインでCBの谷口彰悟がボールを持ち運んだ瞬間のシーンだ。
ここではRWFのオリヴィエ・ブマルが谷口に対してチェイシングを行い、DMFの扇原貴宏が相手DMFのエドゥアルド・ネットをマーク。さらに、CFWのウーゴ・ヴィエイラはもう一人のCB奈良竜樹へのパスコースを消しながら、ボールとの距離を縮めていることがわかるだろう。
いわゆるプレッシング、前線からの守備をチームで連動して行おうとしている場面だ。
そして、一見すると、ここまでは大きな問題がなく、「ハマっている」ように感じられるだろう。
②一人のズレが命取りに…
だが、実はここで問題が発生してしまうのである。
上述から一秒後、谷口は縦パスを敢行するのだが、これはまずブマルのチェイシング強度が緩かったことが一つの引き金となった。
ある程度ボール扱いが得意な選手であれば、この距離感であれば、ストレス的にはフリーの時とさほど変わらない。そのため、谷口は落ち着いてパスコースを見極めて、「クサビ」を打ち込めたのだ。
おそらく、彼には、ボールを受けに下がりながらパスコースのアドバイスを行っていた大島僚太の左手もしっかりと見えていたぐらいの余裕はあったはずだ。
しかし、それよりも気になったのが、(四角い囲み線)LFWユン・イルロクのポジションにあった。
ウーゴ・ヴィエイラが右に開いた奈良へのパスコースを切っているため、彼がここで取らなくてはいけなかった選択肢は大きく分けて二つに絞られていた。
谷口から縦に入るパスコースに入りインターセプトを狙うか、もしくは、パスの受け手候補(画面外にいる中村憲剛)との距離を詰めることである。
しかし、いずれを実行するにも中途半端なポジションを取ってしまい、結果的にこのプレッシングが完全破壊されてしまうのであった。