新オプションへの挑戦

ワールドカップ終了後、レーフは代表選手たちが集まる場で「新たなオプションにも挑戦していきたい」と宣言したと言われている。

その言葉には様々な思惑が隠されているだろうが、彼が口にした「新たなオプション」の一つとして据えられる可能性が高いのが、ダイレクトプレーや対戦相手に合わせた戦術の採用かもしれない。

これまでのドイツ代表は、どちらかと言えば、ボールを保持しながら敵陣をいかにして攻略するかに時間を割いてきたチームだ。

パス本数を最小限に減らして最短距離でゴールに目指すダイレクトプレーや、相手チームの長所を消して弱点を突く戦術は避けてきたイメージが強い。

前述のワールドカップにおけるメキシコ戦では、攻めあぐねる中でも「ボールと人の動きで崩す」という方法に終始し、最終的にバランスすらも崩してしまった姿が印象的であったが、自分たちが志向してきたサッカーを捨てられなかった結果と言える。

続くスウェーデン戦では終盤戦にティモ・ヴェルナーのスピードを活かすサイドアタックを、ビハインド状態となった第三戦の韓国戦では最前線にロングボールを放り込むパワープレーを見せたものの、いずれも攻め手を失っての苦肉の策だった。

「プランAが手詰まりになったことで、能動的にプランBを採用した結果」と評価できる類のものではないだろう。

だが、彼らの戦い方がここにきて変化を起こしそうな気配を見せている。

それは、この2試合において、試合毎、試合途中にこれまでにあまり見られなかったゲームプランに挑戦する意識が見られたからだ。

まず、フランス戦において特徴的であったのだが、サイドバックの起用法である。

これまでのドイツは、サイドバックに守備よりも攻撃性能(組み立てやチャンスメイク)を求める傾向が強かったが、この試合でレーフが取ったのは、マティアス・ギンターを右サイドバックに、アントニオ・リューディガーを左サイドバックに据えるというものであった。いずれも本職をセンターバックとしている選手をサイドバックに置いたのだ。

当初のプランには、ホッフェンハイムの※ニコ・シュルツの抜擢するというものもあったかもしれない。抜群のスピードと攻撃センスを備え、ユリアン・ナーゲルスマン監督の下で急成長を見せている25歳の左サイドバックだ。

だが、彼は最も脅威となるだろうキリアン・エンバペに対して、対人能力が高くスピード勝負も得意なリューディガーをマッチアップさせるというプランを選択したのだ。

つまり、自チームの優位性を高めるのではなく「フランス代表の最大の武器を消しにいく」というゲームプランを採用し、不安要素の払拭を優先したのである。

そして、同じく右サイドバックの考えたにも変化が見られた。

これまでここのポジションはキミッヒの定位置であったが、彼をアンカーに動かしたことにより空白となった。そこで、誰が新たに右サイドバックに据えられるかに注目が集まっていたが、この二連戦で起用されたのはボルシアMGのギンターであった。ドルトムントでプレーした頃には右サイドバックで起用されることも度々あったが、彼もリューディガーと同様に本職はセンターバックである。

また、ペルー戦では途中からPSGのティロ・ケーラーが代表初キャップを飾ったが、彼が使われたポジションも本来のセンターバックではなく、右サイドバックであった。

これらの理由には様々な要因があるだろうが、少なくとも言えることは、レーフの頭の中には、これまでにはなかった起用法も積極的に挑戦するというアイデアがあるということだ。

リューディガー、ギンター、ケーラーの三名がそれぞれがセンターバックとは思えぬチャンスメイクを見せてくれたことまではは、さすがの彼でも予想していなかったかもしれないが、戦術的な幅が広がったことは間違いない。

このままセンターバック陣のコンバート策を継続させるか、または純正のサイドバックを招集していくかも一つの論点となるだろう。

※シュルツはフランス戦では出場機会がなかったが、ペルー戦で先発出場を果たし、決勝弾をマークした。