女子と男子の違いとは
――神野監督はこれまでJクラブの強化部長など、いわゆる“背広組”と言われる強化の仕事を10年以上に渡って歴任されてきました。横浜FCでは2005年のクラブ史上唯一となるJ1昇格をスタッフとして経験していますが、監督へ転身されたキッカケは?
それはもう奥寺(康彦、横浜FC代表取締役会長)さんに「やってくれ」と言れれましたので。奥寺さんから言われたら断れないじゃないですか(笑)
――女子サッカーの現場は男子と違ってスタッフの数が限られます。だからこそ、強化の経験を活かせるのでは?
活きると思います。強化部の仕事というのは、マネジメントの部類に入ります。選手と話をしたり、今チームがどういう状況にあるのか?監督に対して意見を交換したりしていました。
もともと選手たちとよく話をするタイプだと思うので、「今の雰囲気はどうなのか?」と空気を読んだりもします。
――そして2012年にはS級のJFA公認指導者ライセンスを取得されています。S級は海外研修も必須カリキュラムになりますが、どちらに行かれたのですか?
フランスのジロンダン・ボルドーです。
――ローラン・ブラン監督体制でリーグ優勝した頃でしょうか?
僕が行った頃はブラン監督はすでにフランス代表監督に転身されていましたが、ブランさんのサッカーを継続している良いチームでした。ただ、僕が受けた指導の中での1番は、神戸で出会ったバクスター監督なんです!
――現日本代表監督の森保一監督、名古屋グランパスの風間八宏監督を筆頭に、バクスター監督の指導を受けた選手が引退後に監督となって大活躍されていますね!
でも僕はまだまだなので、一緒にしないでくださいね。おこがましいので(笑)。
バクスターさんには、サッカーを上手にシンプルに伝えていただきました。現役時代は横浜マリノスで感覚的なモノを養い、バクスターさんにそれを論理的に整理してもらいました。
――他にもオスカーさんやホルヘ・ソラーリさん、日本代表に招集された際はハンス・オフトさんのような外国籍の名将と呼ばれる監督の指導も受けて来られました。
指導してもらった全ての監督の影響を受けてきていると思います。それぞれに特徴のある方々ばかりですので。
――最近、Jリーグにはスペイン系監督のブーム(※2)があります。神野監督も神戸時代、スペイン人のベニート・フローロ監督(※3)の指導を受けられていますね。残念ながら結果を出せませんでしたが。
これは僕の主観に過ぎないのかもしれませんが、当時のチームにはバクスターさんの組織的なサッカーが凄く浸透していたんです。
その組織立ったサッカーから、ベニートさんの個も交えたサッカーになりました。そこでなかなか切り替えなれなかったところがあります。我々選手たちのレベルが低かったのかもしれません。ただ、人間的には良い人だったので、僕はベニートさんとすごく仲が良かったですね!
※2 Jリーグのスペイン系監督ブーム:神戸のファンマ・リージョ監督、東京ヴェルディ1969のミゲル・アンヘル・ロティーナ監督、徳島ヴォルティスのリカルド・ロドリゲス監督など。
※3 ベニート・フローロ:スペイン出身、1992-1994年にレアル・マドリーを指揮し1998年にはヴィッセル神戸を率いた。
――神戸ではバルセロナとレアル・マドリーの両方で10番を着たデンマーク代表の英雄=ミカエル・ラウドルップともプレーされました。
ラウドルップは技術的にめちゃくちゃ上手いのはもちろんなんですが、それ以上にサッカーという競技をよく知っている人だなと思いました。
――今までサッカーに携わってきて、「1番上手い!」と思う選手は?
え~~~誰ですかね?(笑)対戦相手もいるので、ジーコさんとも対戦させてもらいましたからね。
ただ、チームメイトとして、そして同じストライカーとしては、ラモン・ディアス(Jリーグ初代得点王)が凄い!と思いましたね。
――話を戻しますが、指導者として大事にされていることは?
コミュニケーションはもちろんですけど、チームの空気や雰囲気を大事にしています。
あと、ピッチ内の部分では矛盾しないように結果論でモノを言わないようにしています。「シュートが決まったから結果オーライで良いじゃん」ではなく、我々がやろうとしているサッカーでやろうとするミスはOKなんですが、全然関係ないようなスーパープレーをしても意味がないんじゃない?と。
ベースを絶対にずらさないように意識しています。
――女子サッカーは「プロ」ではなく、「アマチュア」なのが現実としてあります。また、女子選手と男子選手では指導するのに違いもあるのでしょうか?
プロかアマチュアか?の違いと言うよりも、男女の違いはあるでしょうね。女子はすぐ泣いてしまう選手がいます。でも、女子の選手の方が真面目でひたむきさも凄いです。
ただ、男子だったら、プロだったら、逃げ場がないじゃないですか?生活が懸かっていますし、特に妻帯者ともなると逃げられない。苦しくとも、やらなければいけない。その“差”はあるかもしれません。