――プロ野球と違い、Jリーグは育成組織を持つプロスポーツクラブです。選手を育て、チームで活躍してもらうところまででなく、その先のことも考えなくてはならないと思うのですが、経営的な側面からどのようにとらえていますか?

育成のチームを持っていることは素晴らしいことだと思います。そこで育った選手がトップチームへ上がって活躍し、本人が希望すれば海外へ飛躍していく。そのストーリーが描ければいいですし、経営的に考えてもおそらくローコストです。

エスパルスで育ち、活躍して羽ばたいくことはチームのブランディング的にも有効ですから、強化していくべきだと思っています。

ただ、野球と違って、「保有権」という言い方で良いのでしょうか、これがないのでそれはいかがなものかと感じてしまう部分も個人的にはあります。野球であればドラフトで獲得した選手がある程度の期間、チームにしっかりと貢献した上で送り出す形になっていますが、サッカー界はその点が“緩い”。

選手生命が野球に比べると短いことなどやむを得ない部分はあるとは思うのですが、そこのところの合理性が担保される仕組みにしたほうがいいのではないか、とは率直に感じます。チームブランディングであったり、「エスパルスの〇〇(選手名)」と印象づけたりする戦略面で難しい部分があります。

※清水エスパルスの生え抜きで2019年夏にラピド・ウィーンへ完全移籍した北川航也。クラブとの関係は現在も非常に良好だが、日本代表に選ばれてこれからの時期だっただけに「もっとプレーしてほしかった」という思いはクラブ側に当然あるに違いない。

「新しい清水エスパルス」

――清水エスパルスはオリジナル10の中でも“色の濃い”クラブです。今年からエンブレムが新しくなるなど「変わっていくところ」もある一方で「変わってはいけないところ」もあると感じるのですが、社長の立場からどのように考えていますか?

変わってはいけないところに関しては、やはり市民クラブとしてスタートし、熱狂的な方々に支えられてきた歴史や文化。ファン・サポーターの方たちには「サッカー王国・静岡」の誇りがベースとしてあると思います。

そういったものを大事にしなければならない一方で、逆にややそこに胡坐をかいてとまでは言わないですが、変わりきれていない面もある。また、静岡の中でこそエスパルスはステータスがありブランディングもできていますが、全国レベルではどうなのか、と。

今の状況から飛躍するためにはブランディングなどでもう一歩変わっていかないと、ある種の恵まれた環境の中で“温室育ち”になってしまう印象を受けました。