求められる“監督サトシ”の手腕

気になるのはマイボールを大事にするコンセプトを導入しながら、ボール支配率が上がっていないことだ。

サッカーにおける原理原則の1つでもある「ボールを奪ってから最初のパスの精度」が悪く、展開力にも欠ける部分がある。

これには今季は「5位以内を狙う」と大型補強の目玉となったMF米本拓司と永木亮太の獲得により、序盤戦はU23日本代表MF田中聡のポジションが定まらなかったことが大きく影響している。

パリ五輪の日本代表としても期待される田中聡

個の能力で言えばJリーグ屈指のボール奪取力を誇る米本の方が守備力では勝り、ビルドアップでは田中に一日の長がある。そのため、「守備的に行く時は米本、攻撃的に行く時は田中」とアンカーのポジションは2人が併用されている。

しかし、実際には米本のボール奪取力は持ち場を離れて前に出て行くアグレッシヴさが売りで、それは守備力というよりも攻撃力に近い。守備的MFをアンカー1人で構成する際、「動」の米本は1列前のインサイドMFが適しているように思える。

逆にインサイドMF起用されることもある「静」の田中はアンカー専任が最適だろう。ポジショニングでボールを奪い、相手のプレスを吸収してパスを出せる田中はボールと共に味方に時間とスペースを供給できる稀有な存在だ。彼のアンカー起用で試合内容がよりポジティヴに変容し、リーグ初勝利やルヴァン杯でのグループステージ突破に近づいている。

チーム内で最も重要な役割を19歳の若手に託すのは酷かもしれないが、彼は遠藤航や齊藤未月(G大阪に期限付き移籍中)のように今後は大きな国際舞台で戦うことが予想される逸材なだけに、監督サトシの要求に選手サトシは応えられるはずだ。

また、主に[3-5-2]や[3-4-2-1]など3バックをメインシステムに採用している山口監督だが、その3バックの構成が勝てない時期には本職CBを3枚並べるような後ろ重心の編成をしていたことが多かった。

今をときめく川崎フロンターレの日本代表右SB山根視来も湘南時代は3バックの1角としてプレーしていたように、このチームの3バックは攻撃的な人選が相応しい。

現チームでは杉岡大暉や山本脩斗など本職SBの選手が起用された時が湘南らしさを発揮できている。後がなく、開き直ったことが湘南という特異なチームの最適解を編み出したようだ。

新たな監督による新たなサッカーの構築は産みの苦しみを伴う。しかし、湘南はスタイルを昇華させようとしているだけだ。

試合内容が良かった序盤の敗因は、新戦力との連携確立とFW陣のコンディション不良による得点力不足に尽きる。新戦力もフィットして来て、ウェリントンと瀬川祐輔の状態も上がって来ている。選手層も厚くなり、高卒新人のFW鈴木章斗には大化けの気配も漂う。

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山口監督は新人監督だが、湘南は3代続けて新人監督が指揮しているからこそ、独特のカラーを持つクラブでもある。戦術は整理されており、チームの雰囲気もポジティヴなため、チーム作りは間違っていない。

ここからは「指導者」として自分の作ったチームで、「勝負師」サトシの采配力で勝つ試合が求められる。

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