エウシーニョと杉本太郎の融合
徳島が中位に甘んじて来た理由は、すでにJリーグ歴代最多記録となった23度の引き分けを喫しているためだ。冒頭に「4カ月負けていない」と記述したが、その内訳は7戦連続ドローを含む18戦8勝10分だ。
勝ち切れなかった最大の要因はリーグ13位の45得点。1試合平均1得点は超えているものの、3得点以上を奪った試合は3回しかない。攻撃サッカーが信条のチームとは思えない矛盾だが、ここへ来て3連勝を含む9戦6勝3分と勝ち始めた。
それには、春先に加入した右サイドバック(SB)エウシーニョと、今年7月に福岡から4年ぶりに復帰したMF杉本太郎。この2人の存在が大きい。
来月33歳になるエウシーニョは川崎フロンターレ時代のような突破力こそないが、経験値や技術の高さを活かしている。攻撃時には中央エリアにもポジションをとってゲームメイクに関わり、周囲を活かす「偽SB」の要素を取り込んでいる。もちろん、相手や状況を見てワイドで「幅」をとり、相手の陣形を横に間延びさせる役もこなす。
そして、その「幅」の中で技術と想像力を発揮するのが、杉本だ。内股のような細かいステップワークを駆使し、狭いスペースで前を向くターンは香川真司(シントトロイデン)並みの高等テクニックだ。
これまでは相手の守備ブロックの外側でしかボールを回せず、ウイングがドリブルで仕掛ける場面が多かった。しかし、現在はエウシーニョが内側と外側を使い分けてポジションをとり、角度をつけて入れる縦パスを、「ロンド(鳥かご)の中の人」杉本が捌くことで、攻撃に鋭さが加わった。2人のコンディションが同時に上がってきたことで得点が増え、チームは勝ち始めたのだ。
今季から加入したバルセロナ下部組織出身のスペイン人GKホセ・アウレリオ・スアレスと、来日2年目のブラジル人CBカカの2人がチーム戦術にフィットし、後方でのボールロストが極端に減ったことも大きい。最少失点を築いているのは、この外国籍選手2人の日本サッカーへの適応が進んだからだ。
あとはコンディションの良いFWを適時起用していくだけだ。もっとも、これがシーズンを通じて苦戦している大きな要因でもある。外国籍も含め確固たるストライカーを確立できていないが、ここへ来てU-21日本代表として敵地でのイタリア戦でドローに導くゴールを挙げた藤尾翔太が殻を破った感がある。
チーム最多8得点を挙げる藤尾に、7得点の一美和成を戦況によって使い分けるFWの起用法が、ここに来て武器となっている。