徐々に浸透度合いを高めた就任1年目
今季より招聘されたアルベル監督は、ポゼッションを基調とした攻撃的スタイルの標榜者として知られる。就任発表後の昨年12月に実施されたクラブの公式インタビューでは、
『ポゼッション(ボールの保持)も大切ですが、それ以上に重視していたのは、ポジション(選手の立ち位置)です。ポジションとポゼッション、このふたつによって、より良い攻撃が実現できます。』
と新潟時代のスタイルを振り返りつつ語っており、選手の立ち位置を重視する“ポジショナルプレー”を哲学としていることをうかがわせていた。新たに指揮を執る首都クラブでも、この哲学を貫くことが予想された。
だが一方で、スペイン人指揮官は現実的な目も持っていた。最終ラインからのビルドアップを基本的な約束事としつつ、相手守備陣に生じたスペースへロングフィードを送り込み、一気に加速して崩す形も織り交ぜたのだ。
ポゼッションとロングボール。一見すると相反する事象に思えるが、そこには指揮官の思慮深さがあった。
新たなスタイルの構築には相応の時間がかかることに加え、前線にはアダイウトンら走力を活かして個の力で打開できるタレントも揃っていた。就任1年目から急激にスタイルを転換するのではなく、徐々に浸透度合いを高めていくことを主眼としていたのである。
事実、シーズンが進むにつれて、ボールを保持しながら攻める形は構築されつつあった。とはいえ、完成までの道のりは長い。1-2で敗れた第33節・名古屋グランパス戦の後にアンカーでフル出場した東慶悟は次のように語っている。
『フィニッシュの部分は来年の課題になるのかなと思います。ボールを保持してゲームを進めていくチームは絶対にぶつかる壁というか、ブロックを作った相手を崩す作業はまだまだ。後半はわりとよい時間もあったので、それを前半からできるようにすることが課題かなと思います。』
背番号10のコメントは、チームの現在地を端的に示している。ブロックで固めた相手にはロングフィードでの打開が難しく、アタッキングサードでパス交換から崩す形が求められる。
コンビネーションでの崩しは発展途上であり、来季の重要課題となる。開幕前のキャンプでパターンをどれだけ用意できるかがカギを握りそうだ。