チーム最後の主将として
今季が終わればチームの活動終了とともにスパイクを脱ぐ。これまで泥臭く球際の戦いを制し、献身的にチームを支え続けてきた男は全力で戦い抜く。吉野はチームの正式な主将ではないが(チームは主将を決めない方針)、キャプテンマークを巻いてキャプテンシーを見せてチームをけん引してきた。
名門チーム最後の主将にソニー仙台FCの選手として戦う矜持(きょうじ)などを聞いた。
――名門ソニー仙台FCの最後の主将としての誇りや想いを教えてください。
「ソニー仙台FCのキャプテンに正式に任命されたわけではないんですよ。監督から『蓮にやってほしい』と言われましたけれど、任命されたわけではありません。鈴木淳監督になってからキャプテンを決めない方針なんですよ。みんなが自覚と責任を持ってやろうということで。その中でキャプテンマークを巻かせてもらっています。
キャプテンマークを任せてもらっていることは本当に責任をすごく感じています。やらなければいけないという気持ちになります。最後の年にキャプテンマークを巻かせていただいているので、いままでのソニー仙台FCの歴史、功績を考えて恥ずかしい試合はできません。OBの方や会社の方たちに結果で恩返しする気持ちが増していきました」
――ソニー仙台FC一筋でキャリアを終えることについてはいかがでしょう。
「まったく悔いはないです。もともとそうしようと思っていたので、気持ちに変化はありません。より一層、試合の結果で恩返ししたいなと思っています」
――ソニー仙台FCはこれまでJFLの門番と言われてきたチームです。Jリーグ参入を狙うチームとの対戦は力が入りましたか。
「それはもちろんそうですね。参入を目指すチームに対しては『絶対参入させないぞ』という気持ちでやっていました。『JFLはそんなに甘くないぞ』という気持ちでしたね。」
――ソニー仙台FCで最も印象深いエピソードを教えてください。
「監督が代わったことですね。自分にとって大きいことでした。鈴木監督になってサッカー観が180度変わって、戦術もパスサッカーになりました。そこで経験したことはサッカーをより深く知れたというか。『サッカーの楽しさ』、『本来の楽しみ方』、駆け引きやボールをつないで相手の逆を取るプレー、相手を見て考えてプレーするなど。そういうところを経験できたことは自分にとってすごくいい経験、財産になったと思います」
――職場の方々も試合に駆けつけていると聞いています。支えてきた職場の方々への想いを教えてください。
「基本的に午前8時半に出社して、午後2時に職場を離脱させてもらって、午後3時から練習をさせていただいています。平日の業務がある中で、午後2時に職場を離脱させてもらっているので、職場の方々のサポートがないとできないことです。職場の方々、会社の方々には本当に感謝しかないです。
その中で嫌な顔をせずに『練習いってらっしゃい、今週も試合頑張ってね』と言葉をかけていただいています。さらにホームゲームには会社の方々も応援によく来てくださっています。試合に勝っても、負けても会社に行ったら言葉をかけてくださるので、『支えられているんだな』という気持ちになります。自分たちはより会社のためにいい報告、勝利の報告をしないといけないという責任感が芽生えました」
――これまで支えてきたスタッフの方々への想いを教えてください。
「スタッフには感謝しています。自分たちよりもアウェイゲームの準備などやることも多いですし、荷物を運んで、試合の日には早く試合会場に着いて準備していただいてきました。平日も練習メニューを考えて、マーカー、コーンを置いていただいて、時間外のところでも選手のため、試合に勝つためにということを考えていただいているので感謝しています」
――実業団チームの良さ、実業団チーム所属選手としての誇りを教えてください。
「社会人としての自覚、責任感を芽生えさせてくれます。自分たちがサッカーをしているこの環境が『当たり前じゃない』というところを毎日感じさせてもらっています。仕事とサッカーを高いレベルでやらせてもらっている中で、『サッカーだけをやっているプロチームに絶対に負けたくない』という気持ちでやってきました。実業団チームとしてのプライドをすごく強く持ってやっていました」
――現役を続行するソニー仙台FCの選手たちへのエールをお願いします。
「いろいろな選手がいる中でソニー仙台FCでのサッカーで、上を目指すことや仕事もしっかりして、社会人としてここでサッカーを経験できたことを大きな財産だと思っています。来年からキャリアはそれぞれだと思いますが、このソニー仙台FCでやってきた経験を生かして頑張ってほしいと思っています」
――改めてソニー仙台FCは吉野選手にとってどのような存在ですか。
「一言では表せないです。自分のサッカー人生もそうですけれど、人生においても大きな存在だったことは間違いないと思います。その一員になれたことに誇りを持ってこれからも生活していきます。ソニー仙台FCには感謝しかないです」
――ソニー仙台FCの一員として感謝しつくせないくらいの経験をして引退されます。今後の人生でソニー仙台FCで過ごした経験をどう生かしていきたいですか。
「本当にいろいろな経験をしてきて、いいときも悪いときもソニー仙台FCの看板を背負って過ごしてきました。自分が上手くいっていないときの経験、そこからまたさらにトライ、エラーを繰り返した経験を、ソニー仙台FCでは多くさせていただきました。
これから先新しいことを学ぶ機会が多くあると思いますが、この先の人生でも積極的に挑戦する姿勢、学ぶ姿勢を最後までやり抜く覚悟を強く持って、このソニー仙台FCで過ごしてきた経験を今後の人生に生かしていきたいと思います」
――サッカー選手最後の試合である最終節に向けての意気込みをお願いします。
「最後なので本当にサッカーを楽しみたいです。その中でも勝ちにこだわりたいと思っています。それは職場の方々や、家族、仲間、友だちもそうですけれど、いろいろな人に支えられてここまでサッカーをやらせていただきました。感謝の気持ちを込めて、恩返ししたい気持ちがあります。それをワンプレー、ワンプレーに魂込めて表現できたらと思っています」
背番号14が現役キャリアを終えると聞いて、仙台大時代にともに戦ってきた選手たちが吉野にメッセージを送ってくれた。
ファジアーノ岡山
岩渕弘人「サッカー選手としてのキャリアお疲れ様でした。これからパパとして大変なこともあると思いますが、奥さんと仲良くしてください。いつでも飲みましょう!」
嵯峨理久「現役生活お疲れ様でした!蓮くんは大学時代からピッチ内外で尊敬している先輩の一人です。これからも蓮くんらしく次の道へ進んでください。自分が引退したときにセカンドキャリアの先輩として沢山お話聞かせてくださいね(笑)。また会いましょう!」
浦和レッズ
松尾佑介「吉野主将、現役生活お疲れ様!!もう、ピッチで吉野主将を見ることがないと思うと悲しいです。今度ゆっくりこれまでの話や吉野主将のような暖かい家庭をどうやったら育めるのかアドバイスください。吉野主将お疲れ様でした!」
今月24日午後1時にみやぎ生協めぐみ野サッカー場Bグラウンドで行われる栃木シティ戦を最後にソニー仙台FCは活動を終える。出場すれば現役最後の試合となる決戦に吉野はどのようなプレーを見せるのか。白星を飾って名門の歴史を終えてほしい。