ミランvsアーセナル「お互いの思惑・・・、そして大差の要因」

チャンピオンズリーグ決勝トーナメント初戦で、ミランとアーセナルが顔を合わせた。僅差の拮抗したゲームになるのではないかと試合前は思われていたこの試合は、予想外に大差のつくものとなってしまった。4‐0というスコアで、ミランがアーセナルを葬り去った理由とはなんだったのだろう。確かに、不運とピッチコンディションの問題もあったのだが、それだけが要因となった訳では無かった。

まずはフォーメーションを確認しておこう。ミランはいつも通りの4‐3‐1‐2で、メンバーもある程度予想されたメンバーであった。アーセナルのフォーメーションは4‐3‐3。DFラインには、復帰したサニャとギブスを両SBとして起用した。また、攻撃的なアルテタをソングと並べてボランチの位置に置いた。前線は新星チェンバレンを外し、左ウイングに本来は中盤のロシツキーを起用した。右のウイングにはスピード溢れるウォルコットを置き、中央には絶対的エースであるファン・ペルシーを据えた。

アーセナルの狙いと上手くいかなかった理由

アーセナルの狙いとしては、守備に劣るミランの右SBアバーテの位置を狙い左サイドから攻撃するというものであったはずだ。周りを使うセンスのあるロシツキーを左に配置し、中に入りながらボールを受けさせる事によってノチェリーノ、アバーテ、ファン・ボメルの中間のスペース辺りに起点を作る。そして、空いたサイドにギブスをオーバーラップさせながら、アルテタやラムジーを絡めながら数的優位を作り出し、攻略する。ウォルコットはあえて右サイドで孤立させる事によって、その突破力を生かす。次の図のような形が、狙っていた形のはずだ。左サイドを枚数をかけて崩し、メクセス辺りを上手くサイドに引きずり出す事が出来れば、プレミア最高峰のフィニッシャーであるファン・ペルシーが仕事を出来る可能性は上昇したはずだ。

しかし、この試みは失敗している。前半の序盤にはいくつか、ロシツキーにボールが入ってそこから攻撃を組み立ていく形が見られたが、その後はほとんどそういった攻撃は出来ないままに終わってしまっている。その理由は、ミランが前線からプレッシングを仕掛けた事だ。これによって、段々とアーセナルと組み立ては機能不全に陥っていく。そうなると、強引なパスを繋ごうとすると中盤で引っかかってしまう。前線のロビーニョやボアテングなどのハードワークに苦しみ、それをなんとか掻い潜って繋ぐ頃にはしっかりと守備が整ってしまっている。守備が完全に整ってしまうと、ノチェリーノとアバーテの激しいチェックによってロシツキーがタメを作ることが難しくなり、そうなるとギブスやラムジーも積極的に絡むことが出来なくなってしまう。そういう意味では、アーセナルは起点するべきサイドを間違えたというのが一つあるのかもしれない。セードルフや彼と交代したエマヌエルソンがセントラルハーフに入るサイドの方が、彼らにとっては崩しやすいサイドだったのではないか。

アーセナルは、いかにして崩壊を迎えたのか

では、アーセナルの守備組織がどうして崩壊していったのか。それには、お互いのフォーメーションを見ていく上で必然的な理由が存在していた。フォーメーションを見ていくと、ミランとアーセナルの相性は最悪に近かったのである。それについて、図を使って説明していこう。

この時点で、もう割とヤバい。ソングの仕事が明らかに多過ぎる。エマヌエルソンにボールが入ったらプレスを行い、さらに、走り回るボアテングもマークする必要があるからだ。また、ボアテングが右サイドに流れていった場合は、ソングがついていくことになるので、次の図のような状況となる。

つまり、ボアテングに引きずられてソングがいなくなったバイタルに、バイタルでプレー出来るミランの選手たちが大体2人くらい凄まじい勢いで流れ込めるわけだ。ちなみに、守りが不得手なアルテタはこの時点で誰を見ればいいのかわからなくなってしまっている。では、ノチェリーノがボールを持っている時は、どうなるだろうか。このケースは次の図のようになる。

もう凄いヤバい。ヤバいってレベルじゃないくらい、全てがヤバい。

赤で囲んだバイタルエリアでは既に2対1が出来上がっていて、エマヌエルソンはフリーな状態、さらにミランのエースであるイブラヒモビッチも中央で1対1の状況である。さらに1失点目のように、ソングが遅れていれば右サイドのスペースにパスを送り込める。アルテタは、バイタルエリアが大変な事になっているのが気になり、ノチェリーノのところに全力でプレスにもいけず、結果的にノチェリーノは落ち着いていいパスを出す事が出来る。

このフォーメーションで守った事の大きな問題は、明らかに何もしていない選手が生まれてしまうことである。

特に両SBは、対面に人がいないので混乱する。アルテタも、守備が得意ではない上にバイタルもボールホルダーも見なくてはならなくなってしまい明らかに混乱した。

そしてSBは、中盤が図のようにかき乱されたので、悩みながらもセントラルハーフにプレスにいくと、その裏のスペースに蹴りこまれてしまう。2失点目、イブラヒモビッチでは、アーセナルはどうしていれば良かったのだろうか。個人的には、セードルフが負傷退場した事はどちらかというとアーセナルにとって有利になる流れだったはずである。セードルフやアクィラーニといった選手が不在だと、ミランは前と後ろを分断されやすい。前から激しくプレッシングをかける事によって、相手を焦らせればプレミアらしい切り替えの速い撃ち合いをする事が出来たはずである。中盤の噛み合わせを良くする為に、1ボランチ2セントラルにして、コクランのような守れる選手をノチェリーノ側に起用する事が出来ていれば、さらにプレッシングの威力は増していたのではないか。ファン・ボメルやCBから、セントラルに出たボールに対して激しく潰しにいければ、可能性は残っていたと考えられる。ラインを上げてコンパクトにしてバイタルエリアに密集を作り出し、相手の前線と中盤を分断し、速攻でミランの体力を削り肉弾戦に持ち込めれば、アーセナルにも十分な可能性はあったはずである。去年CLで守備陣が素晴らしいパフォーマンスを見せたバルセロナ戦のような試合に持ち込む事だって、不可能では無かったはずだ。確かに、ナスリやセスクといった攻撃の選手は抜けておりウィルシャーは不在。だからといって、守りの面子自体はそこまで変わっていない。裏のスペース対応には強さを見せるコシエルニー、守備の要として相手のエースを封じ込めるヴェルメーレンを中心とした守備陣も使い方次第では、十分な実力を発揮出来るはずだったため、この結果は非常にもったいなかったといえるのではないだろうか。

アーセナルは今まで述べたように戦術的にもそうだが、メンタル的にも苦しんでいると言わざるを得ない。マンチェスター・ユナイテッドに惨敗した事をまだ引きずっているのか、それともリーダーの不在からかはわからないが、今のアーセナルはあまりに大人しいチームになってしまった。失点したら、明らかに反撃の意志よりも失望の方が勝ってしまっているように見え、崩れ始めたら一気に点差がついてしまいがちである。若く、アグレッシブに恐れるものなく、我武者羅に挑んで来るそんな若武者たちのアーセナルの復活に期待したい。

※フォメ―ション図は(footballtactics.net)を利用しています。

筆者名 結城 康平
プロフィール サッカー狂、戦術オタク、ヴィオラファンで、自分にしか出来ない偏らない戦術分析を目指す。
ツイッター @yuukikouhei

ツꀀ

最後まで読んでいただきありがとうございます。感想などはこちらまで(@yuukikouhei)お寄せください。

{module [170]}
{module [171]}

{module [173]}

【厳選Qoly】U23アジア杯で韓国を撃破!近年評価急上昇中のインドネシアが見せる野心と実力

日本人がケチャドバ!海外日本人選手の最新ゴールはこちら