プレミアリーグに衝撃を与えた組み立てのデパート

今回は、スウォンジー解体新書と称して、実験的にスウォンジーの分析を行ってみたい。ここでは、以前私がコラムとして書いた「ウィガンの不思議な守備」のようにマッチレビューという形式ではなく、片方のチームを中心とした試合分析という形を取ってみようと思う。

モウリーニョの下で経験を積んだブレンダン・ロジャーズに率いられ、プレミア昇格1年目にして、素晴らしいポゼッションサッカーを展開しているウェールズの白鳥スウォンジー。4月1日に行われたトッテナム・ホットスパーとの試合から、スウォンジーというチームの特徴を読み取り、弱点と対策方法についても考えていこうと思う。

まずは、トッテナムとスウォンジーのスターティングメンバーである。スウォンジーは4‐2‐3‐1というフォーメーションを選択していた。それに対して、トッテナムは対策の意味で4‐3‐3のような形で挑んだのだが、そこの部分については後で触れる事にする。

スウォンジーは、とにかくポゼッションに重きを置くチームである。

「しっかりとラインを下げて、守備を固めてカウンターを狙う」という弱者の常識は彼らには通用しない。兎にも角にも、彼らはしっかりとボールを保持する事によって、強豪が相手であっても自分たちの時間帯を作り出す。そして、その攻撃的な姿勢でジャイアント・キリングを、大物喰いを狙ってくるチームなのである。

上記の図は、スウォンジーの組み立て時の動きを表したものだ。

一番オーソドックスに彼らが使っていたパターンは、ポゼッションを得意とする多くのチームが使っているものと同様。左右に開いた両CBとGKによって作った三角形でボールを回しながらファーストプレスを回避している間に、SBを前に押し上げ、中盤のうち一人がボールを受けに下りてくるといったスタイルである。ここで、スウォンジーが少し他のチームと違っているのは、ボールを受けるために下りてくる選手が固定されていなかった事である。2ボランチという特性もあってか、7番のブリトンと24番のアレンのどちらが下りてくるのかは、ケースバイケースであった。

また、図のように左SBのテイラーが下りてきて3バックに近い形を作り、右SBのランヘルを押し上げる事でベイルを外に引きつけ、マークのいなくなったCBのモンクがオーバーラップする形なども見られた。

このように、組み立てにおいてスウォンジーは昇格クラブとは思えないレベルのパターンの豊富さと精度を誇るチームなのである。

では、彼らの最大の弱点とは何なのだろう。それはトッテナム戦で露呈した、「組み立ては出来ても、高い位置で起点を作り出す術を持たない」という点である。

次の図を見ていただこう。この図は、スウォンジーが行っていた、ボールを高い位置へ運ぶ為の一つの方法を示したものである。

広く開いたCBがボールを持つと、右SBのランヘルが外いっぱいまで開き、マーカーであるベイルを外に釣り出す。そして、それによって空いたスペースへ入ってきたWGのルートリッジに楔のボールを入れる。こうして、ボールを一度高い位置に運ぶと簡単にルートリッジはバックパス。SBのランヘルかCBのモンクが再びボールを展開する。

ここで興味深いのは、「この組み立ての方式は、ザッケローニが3‐4‐3で使う組み立ての形に似ている」という事である。この方式の最大の弱点は、WGが後ろ向きでボールを受けなければならないので、その組み立てだけでチャンスに繋げることは難しいという点。やはり、高い位置で攻撃のプレイヤーが如何にして前を向いて受けられるかというのが最も攻撃に移る上で重要なのである。そうなると、4‐3‐3のWGには出来るだけ前を向いてドリブル出来る状態でボールを受けさせてあげるのがベストになるのだが、このやり方でやろうとすると容易ではない。

トッテナムは中盤3人を、スウォンジーの中盤3人のマークにつけて前を向いてボールを持たせないようにキッチリとマンツーマンマーク。FWのグラハムにも激しくチャージする事で起点を作らせない。それに加え、両SBも楔に入るところで相手WGに前を向かせないように抑え込む事によって、後ろで回す事は許してもそこから攻撃に入れるスイッチを入れさせないやり方を取った。

つまり、スウォンジーの前線に配置されたアタッカーに対し、1対1になるシュチュエーションを作り出す事で、意図的にスウォンジーの前線を分断したわけだ。これは非常に効果的で、スウォンジーは唯一トッテナム守備陣に対抗出来る個の力を持ったシグルドソンを使うくらいしか出来なかった。そのシグルドソンは素晴らしいシュートを何本かは撃ったものの、スコット・パーカーのマークによって良い状態でボールを受けられる場面がそこまで多かった訳では無かった。

そして、守備についても触れておこう。

スウォンジーの守備は、全体の運動量を生かしたプレッシングによって成り立っている。彼らのプレッシングは、特にサイドにおいてWG、DH、SBの三枚で上手く相手のサイドプレイヤーを囲みこんで狭い位置に追い込む事によってボールを奪取するものである。

しかし、難しいのは「個の守備能力」の部分である。トッテナムのベイルは、せっかく囲みこんでも三人を独力で置き去りにする瞬発力があり、モドリッチやアデバヨールは囲まれても、慌てずにしっかりとキープして簡単なパスでプレスを外してしまう。いくら組織的に3枚で囲み込んでも、相手プレイヤーからボールを奪いにいける「個の守備能力」が高い選手がいないと、結局プレッシングを脱出されてしまうものだ。

例えばトッテナムのパーカー、アーセナルのソングのようなボール奪取能力に優れた選手がいれば、プレッシングには大きな意味がある。そういった選手がいないにしても、激しくボールを奪いにいく姿勢を見せないとプレッシャーにはなり得ない。囲い込んでは逃げられ、囲い込んでは逃げられを繰り返すだけでは、ただ無駄に走る距離が長くなって疲れていくだけである。スウォンジーが張り巡らせた網は、結局トッテナムの選手たちによってズタズタに破られてしまったのだ。

こうして見ると、どうしてもスウォンジーの前に立ちはだかるのは「個人能力の不足」というどうしようもない壁である。それを補う為に、このように組織的なチームを作り上げてきたのは間違いないが、分析されていく中でこのままプレミアリーグで闘っていけるのか?というと厳しいものがあるのでは無いだろうか。

来年以降、プレミアで闘っていくためには個人能力の高いプレイヤーをどれだけ前線に加えられるかが鍵になるかもしれない。そうなれば組織と個人の融合、という更に難しい課題がスウォンジーには突きつけられる事になる。ブレンダン・ロジャーズが作り上げた組織力は確かに優れているが、スウォンジーの限界は見え始めているように思えた。白鳥は、今季プレミアの空に美しく舞い上がった。この先、撃ち落とされるか飛び続けるか。これからも、彼らから目が離せない。

※フォメ―ション図は(footballtactics.net)を利用しています。

筆者名 結城 康平
プロフィール サッカー狂、戦術オタク、ヴィオラファンで、自分にしか出来ない偏らない戦術分析を目指す。
ツイッター @yuukikouhei

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