2009年9月20日、マンチェスター・ユナイテッドのホーム、オールド・トラフォードでの141回目のマンチェスター・ダービーは、満員の観客からのブーイングで始まった。
今シーズン開幕前、マンチェスター・シティへ移籍したカルロス・テベスへの手厳しい“洗礼”だ。いかに両チームの実績・規模が違っても、同じ街のライバルへの移籍はご法度。しかもシティがオイルマネーをバックに有名選手を買いあさっているとなれば、テベスを非難するファンがいたのも不思議ではない。
しかし、テベス本人には予想外の反応だったようだ。
「ファンからはもっと違う反応があるって思ってたのは認めるよ。受け入れるのはキツかった。だって前はファンみんなが俺のことを必要としてたわけだから。」
「ファンはちゃんとわかってないんじゃないかな。どうして俺が移籍したのか、クラブがちゃんと説明してないんだと思う。俺をちゃんと扱わなかったのはクラブの方なんだ。最後まで飼い殺しにしようとした。俺はそんな扱いをされる覚えはないよ。」
テベスは一貫してユナイテッドとサー・アレックス・ファーガソンの非を訴えている。ファーガソンは決して責任を認めないだろうが、少なくとも彼が今までにないほどシティを意識しているのは確かだ。
「彼らはチンケなメンタリティのチンケなクラブだ。口を開けばユナイテッド、ユナイテッド。テベスをユナイテッドから買ったというだけで大得意だ。情けない話だよ。」
ここまで相手にされるようになっただけでも、シティにとっては大進歩と言えるかもしれない。
コロ・トゥレとエマニュエル・アデバヨールを失ったアーセナルはそこまでの大騒ぎにはなっていない。
ACミラン移籍に色気を見せてからファンから野次られ続けていたアデバヨールはもちろん、2003-04シーズンの無敗優勝メンバーの最後の生き残りだったトゥレも、ウィリアム・ギャラスとの関係悪化が報じられていた。若手を重視するアーセン・ヴェンゲル監督だけに、遅かれ早かれチームを去っていただろう。
しかし、9月12日のアーセナル戦において、アデバヨールがロビン・ファン・ペルシーを踏みつけたことは、後々まで禍根を残すかもしれない。
長い攻防の末にジョレオン・レスコットをシティに奪われたエヴァートンは、監督のデイヴィッド・モイーズのコメントが話題を呼んだ。彼曰く、レスコットはシティに移籍したいがためにエヴァートンでのプレーに集中せず、自分とチームメートを失望させたという。
レスコットは反論したが、開幕戦でアーセナルに6点を奪われたパフォーマンスを見れば、モイーズがそう言いたくなるのもわかる。もっとも、モイーズにはそんなことにかまけている暇はなく、論争を早々に打ち切ってレスコットの穴埋めに奔走している。
結局は今シーズンの結果次第。チャンピオンズリーグ、最低でもヨーロッパリーグ出場圏内に入れなければ「金で勝利は買えない」というお決まりの批判を喰らうだろう。
それでも、長い間降格に脅え、ユナイテッドのファンから嘲笑われ続けてきたシティファンにとっては、夢を見させてくれるだけでも“アラブ革命”の価値はあるのかもしれない。
熱烈なシティサポーターで知られる元oasisのノエル・ギャラガーは自身のブログで綴っている。
「昨日の記者会見のファーガソンを見たか?カカに100億円のオファーを出したって聞いて真っ青になってやがった。あれだけで100億の価値はあったよな。クラブのアイデンティティが失われるだなんてどうでもいいんだよ。だいたい、アイデンティティってなんなんだよ?30年間も貧乏してたってのがうちのアイデンティティか!?」