「強度の差」。

前半で見てきたように欧州方面のエキスパートからの日本代表の評価は決して低くない。しかし、本大会において問題となるのは強度、だと筆者は考えている。

日本代表の個々、特にアタッカーがヨーロッパの舞台で研鑽を積んできたことで、平均した攻撃の質や組織としての熟練度は間違いなく上がった。しかし、日本はまだ「強度が本当に高い状態」の相手に守りきったり点を取りきったりすることが出来る段階にない。欧州遠征での前半のオランダ、コンフェデのメキシコやブラジル、ホームで4失点を喫したウルグアイ…。強度の高いサッカーを見せつけられた相手、というのはそこまで多くないが、全ての試合において日本代表と相手チームの差は歴然だった。

香川真司がマンチェスター・ユナイテッドで今季直面した壁もそういったものであったような気がする。2シーズン目となる今年、彼のプレーはエリア内で脅威となるものだと解ったDF達は明らかに初シーズンとは違った。エリア外では香川に好き勝手に持たせても、中では厳しく身体をぶつけてボールを奪い取る。ミランでの本田圭佑も、戦術の国イタリアにおいて、速い展開のロシアとは違う「勝負所でのメリハリのある複数人での厳しいチェック」に手を焼いた。そういった「強度が本当に高い守備、攻撃」に晒された際、日本の攻撃と守備は簡単に攻略されてしまう。

逆に日本人の特質に合わせて非常に伸びてきた部分が「継続性」である。日本は100の力を出すことは出来なくても90分間70の力で戦い続けることが出来る。コックス氏も「練習試合とは思えないハードワークを常に見せる国」と述べているように、練習試合でも手を抜かずに戦い続けるような勤勉さもある。だからこそ失点しても相手の勢いが落ちた時間帯にしっかり取り返す、という闘い方が練習試合においては出来ていたのであり、欧州遠征では後半明らかにテンションを落としたベルギーとオランダから上手くゴールを奪い去った。直前となったザンビア戦もそうだ。相手が強豪であっても相手が疲れたり、気を抜けばしっかりとゴールを返す、という省エネではやり合えないレベルになっていることは大きな前進だろう。

しかし、本番のW杯は甘くはない。恐らく攻守に100の強度で挑んでくる時間が増えるであろう相手と闘わないとならない状況をどう対処するか、という答えが出ていないのは大きな不安である。グループ内にいる相手、特にコロンビアとコートジボワールは強度の高い時間が上手く嵌れば強豪であっても容赦なく下すだけの力がある。勿論美しい攻撃、欧州方面からも高い評価を受ける日本代表のフロントラインは魅力的だ。しかし、その彼らですら岡崎を除けば、欧州のリーグで満足な結果を残せている訳ではないのだ。

その理由には、勝負所での「強度の差」があると筆者は考えており、それを解決するには個々の戦術理解度やトップレベルでの経験が必要なのではないだろうか。コックス氏は「自陣、敵陣でのペナルティエリア内で弱い」と述べているが、それは「強度の高いエリアや時間帯でのプレーに難がある」という風にも理解出来るのではないか。

アトレティコ・マドリード、ボルシア・ドルトムント。ここ数シーズンのCLで欧州トップクラブと互角に闘いを繰り広げた彼らはまさに、「強度」のあるチームだった。特にチームで決められたようなボールを奪う、もしくは攻撃を仕掛ける状況での強度の高さは驚異的で、それこそが彼らを世界のトップクラブと渡り合わせた。

日本代表は岡田監督が築いた基盤を使い、個々の選手の成長も合わさって、90分間70の力を安定して出せるところまでは熟成された。この大会では、全開で向かってくる相手に対する力があるかどうかを試されることになる。結果がどうなろうと、日本代表が本物であるのかを試される大会として大きな価値を持つだろう。


筆者名:結城 康平

プロフィール:「フットボールの試合を色んな角度から切り取って、様々な形にして組み合わせながら1つの作品にしていくことを目指す。形にこだわらず、わかりやすく、最後まで読んでもらえるような、見てない試合を是非再放送で見たいって思っていただけるような文章が書けるように日々研鑽中」
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